九話 【緋燭の塔と新しい仲間?】

 【ブルボア】との戦いで左腕を無くした俺はエイルと一緒に俺が最初にいた緋燭ひしよくの塔へ。

 ここならもしかしたら俺の腕を治せる何かがあるかも知れない。


 エイルは自分のせいで俺の腕が無くなったと思い、一時は元気が無かったが、やっと元気が戻ってきた。


「ケンジ準備は良い?」

「俺の方は大丈夫だけど、エイル……、またそんなに食糧を持って行くのか?」

 緋燭ひしよくの塔までは一日もかからない。

「だって、何があるかわからないじゃ無いですか?」

「そうかも知れないけど……」

 まあいいか。 エイルが元気になった証拠だしな。


 緋燭ひしよくの塔までは魔生獣の【ガウラット】がちょいちょい襲い掛かってくるが、こいつらなら片腕でも負ける事は無い。


 緋燭ひしよくの塔とはその名の通り赤い色をした塔だ。 古代から建っているので、だいぶ色落ちしてしまっているけど、まだわずかに色は残っている。


 入口の扉は閉まっているが、エイルが前に立つと自動で開く。

 中に入れば自動で閉まる。 自動ドアなのか。


 塔を上り、俺がいた階層まで辿り着くが、中に入る入口が無い。

「結構探しましたけど、入口見当たりませんね」

「エイルが入った時は?」

「あの時は……、え〜と……、こちらの方に……」

 上に上る階段の前に案内され、入ったとされる壁を調べる。

「ここ動きそうなんだけど、何かつっかえてるな」

 恐らく爆発して崩れた時に何かが詰まったのだろう。

小型爆弾コロボム投げてみます?」

「いや、もし中で更に崩れたら大変だからそれはやめておこうか」

 別の入口を探すしかなさそうだな。


 上の階で二手に分かれて入口を探す事にした。


 俺はとりあえず隠し部屋のあった場所辺りの壁に手を当てながら壁に沿って歩く。

 すると、急に壁が鈍く光り、壁が開く。

 エイルを呼ぼうとするが、壁が閉じて行ってしまう。

 思わず急いで中に入ってしまうと、壁は完全に閉じた。


 部屋の照明が光ると所々床が抜けているのがわかる。

 この下に俺がいたのか……。

 部屋の奥には俺が入っていた様な筒状の物がコポコポと音を立てている。

 中を覗くと大きな黒い猫? がいる。

 サイズは豹とかのサイズだな。 これも魔生獣なのか?

 他に何か無いかと、離れようとすると……。

 中にいる猫の目が開き、俺をギロッと見る。

「うおっ!」

 ビビった。

 驚いて俺は少し離れると、筒の中の水が急に抜け始める。


 水が全部抜け切ると筒が開き、中からゆっくりと大きな猫が歩いてくる。

 見た目は完全に黒豹だ。

 俺は剣を抜こうとすると、猫の額に記号の様な文字が浮かび上がり僅かに光る。

 すると、猫が口を開く。


「お待ちしておりました、ご主人様」

 俺の前で猫は座ってこうべを垂れる。


 猫が……喋ったあああ!!


「その左腕はどうしたのですか?」

「いや、ちょっと色々と……」

 猫と会話するってなんだか不思議な気分だ。

「そうですか……、すいません少し失礼致します」

 猫の額がもう一度光ると、俺の額も光り出した。

 え!? なに? 俺の額どうなってんの!?「……成程、少々記憶を見せて頂き状況はわかりました。 まずはその左腕をなんとかしましょう」

「治せるのか!?」

「私なら簡単です」

 猫の額の文字と目が光り、俺の額も光る。

 すると、失ったはずの腕が生えてくる。

 結構変な感覚だ。


 俺は戻った左腕を回したり握ったりする。

 うん、違和感は無い。

「では参りましょう」

「参るって着いてくるのか?」

「勿論です。 私はご主人様のパートナーですから」

「パートナー?」

「? もしかしてご主人様何も覚えて無いんですか?」

「わからないな」

 前世の事なら覚えてるけど。

「は〜〜……。 無理矢理起こされたから記憶が飛んでしまったのかも知れませんね。 なら仕方ありません。 私が思い出させて差し上げます」

 猫の体が光り輝き出した……。



「ケンジ〜〜! どこですか〜〜! もう、勝手にいなくなるんだから……」

 エイルが俺の入った壁の前までやってくると、壁が急に開き、中から俺と俺に抱きついている長い髪をした裸の女性が飛び出した。


「うわっ!」

「ご主人様〜〜、逃げちゃ駄目です〜〜」

「え!? ケンジ!?」

 長い黒髪に、猫の耳が付いたスレンダーな女性は俺の頬に自分の頬を擦り付けてくる。

「ご主人様〜〜、私とチューすれば思い出せますから〜〜」

「ちょ、ちょっと、いいから離れて」

「ちょっとケンジ、 何してるの!?」

 あ、エイル……。


「ご主人様、この人だれ?」

 ローブを羽織ったこの女性は正座している俺にまだスリスリしてくる。

「ご主人様ってなんの事?」

 エイルに詰め寄られる。

「説明した通りなんだけど……」

「この人の何処がネコなのよ!」

「本当なんだって、な、猫だったよな?」

 女性に聞いてみる。

「ご主人様は猫型の方が好みですか?」

 すると体が光り輝き、大きい黒猫へと姿を変える。

「……な」

「……本当……ですね……、なんですかこの……ネコさんは!?」

「自己紹介がまだでしたね。 私はご主人様をサポートする為の存在です。 名前は【レア】と申します」

 猫に戻ると性格変わるな……。

「ネコさんが……喋ったあああ!!」

 あ、その驚きは俺がもうやったから。

 エイルも俺と同じ驚き方をする、

「凄い……もしかしてケンジと同じ【レリック】なのかも! こんな変身出来るなんて!」

「この位は簡単です」

「あの……レアって呼んでもいい?」

「ご主人様の許しがあれば構いませんよ」

「ケンジ良いかな?」

「その位は良いだろ」

「それじゃ……、レア、もふもふしても良い?」

 エイルは俺をチラッと見る。

「良いと思うよ」

「やったーー!!」

「それは嫌ですーー!!」

 逃げるレアを追いかけ捕まえると、もふもふしている。

 俺もちょっともふりたい。 でもさっきの人型を見てしまうと……。


 【レア】と名乗る猫は俺のサポート役で同じ塔で眠っていたらしい。

 本当なら俺と一緒に目覚めるはずが、エイルが俺がいた場所をめちゃくちゃにしたせいで、起きる事が無かったらしい。

 そして、サポートとは俺の体の回復や何か合った時の為の護衛も兼ねているんだとか。

 ガッドレージへ戻りながら教えてくれた。

 散々もふられエイルからは距離を取っているけど。

 そして人型への変身も可能。


 町の入口までやってくると、流石にこのサイズの猫は魔生獣と間違われそうだし、人型に変身してもエイルのローブだけだと変に見られてしまう。

 どうしたものか……。


「問題ありません」

 レアの体が光ると小さくなって普通の猫サイズになった。

「これなら大丈夫ですよね?」

 レアは俺の肩に乗る。

 それをちょっと羨ましそうに見ているエイルがいた。


「ちょっと! ケンジさん! 腕どうしたんですか!?」

 すっかり元に戻っている腕を見たミリムさんが前に乗り出して驚いている。

 まあそうだろうね。

 レアの事や緋燭ひしょくの塔の隠し部屋の事は秘密にして、エイルのポーションが効いた事にして誤魔化した。

「腕を生やすなんて特級ポーションじゃ無いと出来ませんよ」

「俺自身もわからないんですが、エイルに沢山飲まされたポーションが効いたんだと思います」

「……まあ、治ったのなら良いですけど……、それで、また依頼でも受けに来たんですか?」

「はい」

「ん〜、それではこんなのはどうですか?」

 ミリムさんは棚から依頼書を出してきた。


【エルメリオンの王都までの護衛 2500ジル [シルバー以上を求む][エイシス]】


「このエイシスと言う方の護衛ですか?」

「そう、それも王都までよ。 ケンジさんまだ行った事ないでしょ?」

「無いですね」

「ならどうかしら?」

「でもこれ希望ランクが【シルバー】以上ってなってるよ」

 確かに。 【ブロンズ】の俺と【アイアン】のエイルじゃ受けられない。

「あ、そうそう、伝え忘れてたわ。 『マキルド・エイル』【シルバー】合格。 『シドウ・ケンジ』【シルバー】合格。 おめでとう!!」

「「え!?」」

「私【シルバー】ですか!?」

「俺も!? 【アイアン】飛ばしてるけど?」

「はい。 エイルさんはこの間の【ボグリザード】と【ブルボア】の討伐でランクが上がりました。 ケンジさんは【ジャイアント・リッパー】の事もマドルさんに押されてランクアップです」

 やった。 これなら依頼も受けられる。


「ではその依頼受けたいと思います」

「わかったわ。 ならここに行ってみて」

 ミリムさんから一枚の地図を渡された。

「そこに依頼主の【エイシス】さんがいるわ」

「わかりました。 準備して向かいます」

 支部を出てまずは服屋に向かう。


「何か合った時の為にレアの服を買わないとな」

「ご主人様、ありがとうございます」

 肩に乗ったままのレアがお礼を述べてくる。

「ね、ね、私もレアを抱っこしたい」

 その問いにはレアはシャーと毛を逆立てる。

 もみくちゃにされたのが余程こたえたんだろうな。

「まあ、これから一緒に依頼をこなしていく仲間だ。 そんなに邪険にするもんじゃないぞ」

 俺はレアを肩から下ろすと、エイルに渡す。

 エイルはレアを抱っこ出来て満足そうだがレアは暴れている。


「この辺りだな」

 ミリムさんに貰った地図の場所まで来てみるが、そこはボロボロの家が一軒ポツンとあるだけだ。

「本当にここですか?」

 エイルは地図を覗き込む。

「とりあえず呼んでみるか」

 家の扉をノックしてみる。

 返事は無い。

「留守かな?」

 一度宿に戻ろうとすると、後ろから声をかけられる。


「おや? 私に何か御用ですか?」

 声をかけてきたのは白衣を着た細身の男性だ。

「私達は依頼を受けて来たんですが、貴方がエイシスさんですか?」

「そうです。 もしかして【ガル】の方ですか?」

「はい」

「ではどうぞ」

 家の中に案内された。


「エルメリオン王都までの護衛とお聞きしましたが?」

「そうですね。 研究の発表がありまして」

「研究ですか?」

 エイルは錬金技巧術師アルケミスターだから研究と言うのは気になる様子。

「はい、私はこの辺りの古代の遺跡を研究していましてね。 緋燭ひしょくの塔とかも調べておりました」

 緋燭ひしょくの塔……。

「何かわかった事がありましたか?」

 恐る恐る聞いてみる。

「特には無かったですね。 ただ……」

「ただ?」

「いえ、緋燭ひしょくの塔には隠された秘密の部屋があるんじゃ無いかと思っていたのですが、私には見つけられません出した。 散々調べ尽くされている塔ですからね、私の勘違いだったのかも知れません」

 ふーー。

 俺の事がバレたかと思った。


「でもそれで研究の発表なんて出来るんですか?」

「大丈夫です。 他にもわかった事があるので」

「それは?」

「秘密です」

 だよなあ。 自分の研究の成果を発表前に話す訳ないよな。

「それで、お二人は【シルバー】ランク以上の方ですか?」

「はい、【シルバー】に上がったばかりですが……」

「ふむ、二人も【シルバー】ランクがいるのであれば問題無いですね。 護衛の方宜しくお願いします」

「わかりました」

「任せて下さい」

 これで依頼の契約が完了だ。

 出発はエイシスさんの準備が出来たら出発となる。

 二日後位と言っていたので、明日は旅の準備だ。

 エルメリオン王都までは途中にある【ベイル】の町を経由して行く。

 【ベイル】の町までは獣車で一日程、そこから乗り換えて王都まで行く事になった。


 王都か……、お城なんかもあるって言うし、楽しみだな。


 宿に戻ると治った腕にツッコミが入るが、誤魔化し、部屋に入る。

 俺も稼げたので、別の部屋をとろうとしたが、エイルが勿体ないからと、同じ部屋だ。


「明日は色々なお店に行きましょうね」

「そうだな。 王都までの準備しないといけないからな」

 今日は買った食糧を使って料理し、早めに寝る事にした。

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