石を投げたら褒められた
気が付けば硬い地面に横になっていた。
そこから見える天井は緑黄色青のステンドグラスで、そこから差し込む光がキラキラと、明るいオレンジ髪の青年、小野寺朝陽を照らしていた。
「は?」
思わず出た第一声。
一体何処だここと身を起こすと、真正面に見知らぬオッサンがいて驚きのあまり肩を跳ねさせる。
テレビの中で見たような聖職者のような格好に首もとには向きを変えたアスタリスクのような形のモチーフが付いたネックレスを下げていた。
「誰だ貴様は!?」
突然怒り出すハゲのオッサンに吃驚して朝陽は反射的に言い返した。
「いやあなたが誰です!?というかここ何処っすか!?」
辺りを見回して場所の確認をするも、神殿とか礼拝堂みたいな所っぽいとしか認識できない。
というより何でこんなところで寝ているのもわからない。
今気が付いたのだが、隣では功太がスヤスヤと安らかな顔をして寝ているのだが、その寝ているところがおかしい。
石のテーブルみたいな感じのところで、さながら祭壇のように四方に大きい蝋燭が立てられていた。
突然グイッと襟首を掴まれてグエと変な声が出る。
掴んでいたのは物凄い形相をしたハゲのオッサンで、頭に血が上りすぎて顔が真っ赤になっている。
「儂は貴様なんぞ喚んでおらん!!!どっから侵入してきた溝鼠だか知らんが!!気安く儂に話し掛けるなぞ言語道断!!!」
「そっちが質問してきたんじゃ──「はやくこの汚い鼠を摘まみ出せ!!!」──うわこのオッサン全然話聞かねえ」
「オッサン!!??」
めんどいなこのオッサンと思った瞬間、左右からガッチリと何者かに拘束された。
両脇にいるのは兵士みたいな人達。
コスプレイベントみたいと思っていると乱暴に引かれるが、途中で何かに引っ掛かったらしい。
見てみると功太の手が俺の服をガッシリ掴んでいた。
そういえば功太に掴まれて一緒に落ちたんだったと思い出す。
オッサンが忌々しげに舌打ち。
「このっ!何処までも妨害する気か!!おい!誰か剣で服を切れ!絶対に勇者の手を傷付けるな!」
近くにいた兵士が短剣片手にやって来た。
「ちょっ!怖い!怖い!なんだよ直接功太の手を外せばいいだろ!!きゃー!えっちー!!!」
ふざけ混じりな抗議は完全に無視されて、功太の掴んだ箇所の服が切り取られてしまった。
なにするんだよ母さんにめっちゃ怒られるだろう。
「このやろう弁償問題だぞォォォ!!」
俺の声が反響しながら礼拝堂に響き渡った。
ごみを捨てるかのごとく、乱暴に地面に投げ捨てられた。
「いったぁ!」
「ったく!さっさとどっか行け」
唾でも吐き掛けん感じで朝陽を見下ろしていた兵士が踵を返して扉の中に戻っていこうとする。
さすがにカチンと来た朝陽はすぐ近くにあった小石を拾って兵士に投げ付けた。
当てる気はなかったが、近くにぶつかって肩でも跳ねさせてやれればいくらか溜飲が下がるつもりで投げたのだが、小石は綺麗に弧を描いて兵士の頭にヒットした。
「あ」と小さく声を漏らし、次いで「やべ」と心の中で焦り始めた瞬間、兵士が凄い勢いで振り返り、槍を手に向かってきたので慌てて逃げた。
なんだよ、おあいこじゃん!という言葉に兵士達は耳を一切貸さず、一時間近く追いかけ回されたのだった。
無我夢中で逃げ回っていたら路地裏に迷い込んでしまっていた朝陽である。
幸いにももう兵士は巻いたので安心だけど、違う問題はまだ継続していた。
ここ何処問題。
「うー…さっむっ…」
夏にしては変に肌寒く、両腕を擦りながら大通りを目指して歩く。
改めて辺りを観察してみて分かったことがある。
ここは朝陽が住んでいた街ではない全く知らない土地ということ。下手したら外国。
そう思った理由のまず一つが街並み。
レンガ作りのゴシック建築は現代日本にはそうそうあるものではないし、何かのテーマパークとしてもテーマパーク特有のBGMなんかは一切流れてない。
その二、人種がおかしい。
髪の毛色が多種多様で、どこぞのコミケにでもいかなければ見られない色も数多くある。
その三、文字が変。
日本語ではない、かといって英語とも違う文字が羅列している。
読めないわけではないが、なんで読めるのかも分からなくてだんだん怖くなってきた。
「もー、なんなんだよ。夢か?ドッキリか?どっちでもいいから終わってくれよ」
「おい」
突然背後から呼び止められて思わず肩を跳ねさせた。
もしや見つかったのか。
慌てて逃げようとしたらすぐ近くに声の主か、それとも仲間にか、あっという間に服を掴まれて捕獲されてしまう。
「いきなり逃げるとは失礼な奴だな」
そろりと様子を伺うと、柄の悪そうな男が三人。
バタバタと暴れてもびくともしない、自分の非力さを恨む。
「何処の者だ。うちのシマでは見ねえ顔だな」
「他所者か?」
囲まれてしまった。
現在財布すらなく身一つの朝陽を揺すったところでポケットに入ったゴミしか出ない。
その内の一人が「あ」と何かに気がついたような声を出す。
「こいつだよ!教会の兵士に石投げつけたガキ」
「え、マジか。本当にそんなことする奴いるんだな」
「なら俺らと同類だな。どーせ兵士に石投げたらまともな生活なんて出来んだろ」
ひょいと持ち上げられてその筋力にビビる。
「んじゃ、仲間に加えるか」
「そうしようぜ」
「へ…?え!?ちょっ、ちょっとまって!」
逃げれないことは承知で、でも意見を聞いてほしくてバタバタしたら「なんだよ」とこちらに視線を向けてくれた。
「友達がその教会とやらに残されているんだって!迎えにいかないと!」
「……おい、もしかしてそれって」
「ああ……」
憐れみの目を向けてくるゴロツキ達が肩に手を置いて首を横に振る。
「残念だが、その友達は諦めろ」
「は?」
「ああ、目を付けられたか気に入られたんだよ。唾付けられたってことは俺らのような底辺じゃあどうにもならん」
「どうせ行ったところで、石投げたお前は妨害罪だか侮辱罪だかですぐに引っ捕らえられて処刑だよ」
「どんな世界設定だよ、ヤバイだろ」
倫理的に。
「その友達にゃ悪いが、忘れた方が身のためだ」
「おう、そうだそうだ。酒でも飲んで忘れちまえ!」
「だな!がっはっはっはっ!」
「ええー……」と困惑している俺を無視し、ゴロツキ達はそのまま俵担ぎでアジトとやらへ連れて行ったのだった。
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