この弓がエクスカリバーである!!

古嶺こいし

巻き込まれ召喚されました

 それはまさしく伝説の始まりであった。


 右手で掲げたそれは太陽の光を浴びてキラキラと煌めき、人ならざるモノが作りし神具だと主張しているかのようだった。

 元々それは足元の岩に突き刺さっていたものであったし、隣にいる魔術師マーリンガンが「どうせ抜けやしない」とニヤニヤしながら薦めたので、じゃあ遠慮無く引っ張ってみようと思いアーサー王の気分で引っ張ったら抜けてしまったのだ。


 隣のマーリンガンが白目を剥いて唖然としているのと対照的に、棒を天へと掲げて、日の光がまるでスポットライトの様に照らし上げている人物、小野寺朝陽、もといディラは抜けた棒を見上げ、とてつもなく焦っていた。


「……抜けちゃった」


 どうしようとマーリンガンを見ると、ようやく我に返ったマーリンガンが冷や汗だらだらに言う。


「戻しなさい」

「はい」


 ディラが棒を岩へと戻そうとすると不思議な事が起こった。

 なんと、岩に空いているはずの穴が消えているではありませんか。

 絶望をしているマーリンガンに向かってディラはこう言った。


「あの…、ごめんなさい?」


 とりあえず今は謝ることしか出来なかった。






 事の発端は一月ちょいまで遡る。


 日本、某県立高等学校。

 ミンミンとけたたましく蝉が大合唱が響き渡る教室では、良くある授業風景が広がっていた。

 しかし、その中で一人の生徒が机に突っ伏して居眠りしていた。

 隣の生徒が心配そうにチラチラ見ながら足でなんとか起こそうと試みるも、その生徒は一向に起きる気配がない。

 スキンヘッドの先生がツカツカとその生徒へと歩み寄り、手に持ったタブレットで頭を小突いた。


「俺の授業中に寝るなんて良い度胸じゃないか、小野寺朝陽」





 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。先程の頭に走った衝撃で完全に目が覚め、俺は頭を押さえながらのそりと起きた。

 その顔はやっちまった。という表情をしていた。


「後で職員室に来なさい」


 教壇に戻っていく先生を頭を押さえながら見送った。

 絶対に怒られて課題出されるに決まっている。

 そんな俺を隣の席に座る親友、佐藤功太が呆れたように見ていた。





 放課後、職員室でお叱りを受け、予想通り追加課題を出されてしまった。


「どうして起こしてくれなかったんだよー!」

「いやいや起こしたよ。起きなかった朝陽が悪いんじゃん。どーせ昨日もブリオンで夜更かししたんでしょう?」

「……、…いや、まぁ、うん…」


 功太に言われたことが図星過ぎて言い訳が出来ない。

 勿論昨日は夜更かしした。

 ブリオン、正式名ブリテニアスオンラインは今話題のVRMMOブリテニアスオンラインのことだ。


 職業色々、遊び方色々、レベルが上がりにくいのが玉に瑕だけど別にレベルを上げなくなっても十分楽しいという最高のゲーム。

 もちろんどハマりしているし、功太だってもちろんハマっている。


 ちなみに職業は、

 朝陽アーチャー。レベル86。

 功太ソードマン。レベル34。


 たまに組んでクエストに行っているけれど、ブリテニアスオンラインはレベルごとに入れる場所が限られているので、功太に合わせて低難易度の狩場でレベル上げを手伝っている感じ。


「まぁね。イベント近いし」

「高レベクエスト良いなぁ。素材豊富なんでしょ」

「功太も頑張ればすぐだよ。今日はいける?俺、九時から空いてるけど」

「今日はバイトないから行ける!」

「じゃあ決まりだな」


 互いに笑いあって正面玄関へと向かう。


 靴箱から靴を取り出している最中、功太が「朝陽、朝陽」と呼んだ。

「なんだよ」と振り返ると、功太が照らされている。

 しかも上ではなく、下から。

 さながら逆スポットライト。


「え、なにそれ」

「わからない。ゲームの回復スポットみたいじゃない?」


 ブリテニアスオンラインにあるボスと戦う前の運営陣の恩恵、全回復スポットに似ていた。

 問題は、それがゲーム内ではなく現実で起こっているっていうこと。


「とりあえず一旦出てみたら?」

「そうだね」


 功太が光から出ようと一歩足を前に出すと、音もなく光の中心にぽっかりと穴が開いた。

 は?と思う間も無く功太が吸い込まれるように落下。

 思わずといった感じに功太がすぐ隣にいた俺の服を反射的に掴んでいて、完全に油断していた俺は体勢を崩し、功太に引っ張られる形で穴の中へと落下した。







 ゴウゴウと風鳴りのような変な音が辺りから響いている。

 一体どこまで落ちるんだと薄目を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 ラメを散りばめたような宇宙にも似た空間をスゴい速度で落下している。

 うわ、と思わず溢すと、凄まじい衝撃が走り、意識を飛ばした。

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