新入りではない

 ドアが勢い良く開かれて俵担ぎ状態の俺とゴロツキ達が部屋へと入って来た。


「おーい!新入りだ!今回のは兵士に石投げつけた勇者だ!」


 その言葉で部屋の中にいた連中がどよめく。


「おいおい!そりゃ確かに勇者だ!久しぶりに骨のある奴じゃねーか!」

「歓迎するぜ!名前はなんだ!?」

「思ったよりもひょろいな。よく捕まらなかったな」


 よりにもよってゴロツキの溜まり場のど真ん中へと下ろされてしまい、必然的に四方八方を強面達に囲まれてしまう形となった。

 怖い、チビりそうなんですけれども。と震えながら、それでも聞かれたからには答えなくてはと、震える声で自己紹介した。


「ぉ…小野寺朝陽…です…」

「オノディ…あ?言いにくいな」

「ディラでよくね?」

「だな!こいつディラだとよ!」

「よろしくな!ディラ!!」

「いや違「よーし!祝杯だ!!」「おーーう!!!」もうディラでいいです…」


 どうせあだ名みたいなものだろうと、俺は早々に全てを諦めた。


 やいのやいのと時間が経つ毎に人が増えてドンチャン騒ぎになっていく。


 その最中、俺を拉致って来た内の一人が木のジョッキを持ってやって来た。

 ジョッキには並々とお酒らしきものが注がれ、「そーら飲め飲めー!!」と強引に進めてくる。

 これが噂のアルハラというやつか。


「未成年!!俺未成年!!」

「はぁ?ディラお前15歳以下か?」

「いえ、17です」


 アルコールは二十歳から。そんな言葉はこの世界には存在しなかったらしい。


「飲めんじゃないか!!飲めやオラ!!」


 俺の隣の違うゴロツキが持ってた酒瓶を突然朝陽の口に突っ込んだ。

 初めてのアルコールが容赦なく胃の中に注ぎ込まれてあっという間に酔いが回った。

 今、とてつもなく気持ち悪い。


「うぶっ」


 喉奥に突っ込まれた事と、慣れないアルコール大量摂取で思わずえずくと、男が慌てて酒瓶を口から引っこ抜いた。


「おいおいこんなところで吐くな!」

「バケツ持ってこい!」


 今さら慌てふためいたところでもう遅い。

 俺は笑顔のまま容赦なく胃に溜まったお酒を勢い良くリバースした。


「オロロロロロ」

「うわぁやりやがった…」

「下戸だなコイツ」

「バッカ、混ぜ物なんか飲ますからだ。大丈夫か?」


 誰かが背中を擦ってくれているがいるが、気持ち悪すぎて顔が確認できない。


「もっと考えて渡せ」

「スンマセン」

「ほら、立てるか?」


 誰かの質問に、朝陽は自力で立てない。むりむり。と手を振ってアピールした。

 実際頭がぐるぐるしているし、何より世界自体が大回転していた。

 そうしたら誰かが、しょうがないと、またしても軽々と俺を担ぎ上げた。

 スッゲー力持ちと酔いの回った頭で担いだ誰かを称賛した。


「コイツ連れてくから、お前らは片付けておけ」

「へーい…」


 手足ブラブラ、頭がぐるぐる。そんな感じで何処かに連れていかれ、目の前に木のコップが差し出された。

 これは酒?水?

 いつまでも手に取らない目の前の誰かが察して教えてくれた。


「水だ。飲みな」

「たすかりましゅ…」


 救いの水だと震える手でコップを持ち、無我夢中で飲み干した。

 水がめっちゃ美味く感じたのは生まれて始めてだった。


「今日ははもう寝ろ。明日から仕事を教えてやる」


 水を飲み終え、またしても担がれて何処かの部屋に連れていかれると、俺は吸い込まれるように寝床らしき場所に潜り込み眠りについたのだった。




 目を覚ますと、辺り一面真っ暗闇だった。


「暗い」


 昨日何してたっけ。

 軽く記憶が飛んでいることを不思議に思っていると、ガツンと強めの頭痛に呻き声が上がる。


「頭いったっ!ぐわんぐわんする」


 頭を抱えて唸っていると、次第に周りの音が戻ってきた。


「ガーーー、グオオオオオ!」

「んごおおおお!!」


 大騒音、つまりイビキである。


「…………」


 けたたましいイビキに耳を塞ぎながら周りを見ると、酒臭い男どもと俺は雑魚寝していたらしい。

 甦る昨日の地獄。


「思い出した」


 そりゃもうハッキリと。

 人生初のアルハラはゴロツキどもという楽しくない思い出だったが、それも終わりだ。

 のそりと起き上がり扉を確認する。

 どうする?逃げるか?でも逃げるったって何処へ?


「……………。取り敢えず教会とやらを探そう」


 もしかしたら功太も運良く逃げられていれば出会えるかもしれない。

 そろりそろりと、誰も踏まないように扉までやってきて、扉に凭れて寝ている奴をゆっくりずらして部屋を出た。


「う…、やっぱさむー…」


 室内なのになんだこの寒さ。

 そう思いながら腕をさすりつつ手口を探していると。


「おい、ディラ。そんな格好でどこにいく」

「!!!?」


 突然声をかけられ思わず飛び上がる。

 誰もいないと思っていたのに、横の通路に居た。


「あ」


 恐ろしさにゆっくりと振り替えれば、そこにいたのは昨日運んでくれた人だった。

 かなりのイケメンの類いの男だった。凄いな、よく俺なんか担げたな。

 思わずマジマジと見ていると、男は壁に持たれながら腕を組む。


「もう動けるのか。下戸の癖に」

「吐いたからですかねぇー?」


 頭痛いけど動けないほどではない。俺はへらりと笑いながら答えた。

 というか、こんな感じの人だったのか。どっかの芸能人みたいな。

 そう思っていると、男が俺に向かって一言。


「臭い」

「え“ッ!?」


 突然の暴言に精神的大ダメージを負った。

 いや、え?なんで突然…。

 ああ分かった。部屋が酒臭かったから…、って違うゲロ臭いのか!吐いたよ昨日!!

 冷静に考えた。こんなゲロ臭させていたら街中を歩き回るとか無理すぎると頭を抱えていたら、男がフンと鼻で笑った。


「服を出してやる。ついてこい」

「は、はい」


 男についていくと、とっても豪華な部屋に着いた。

 どこの金持ちの応接間ですかと、唖然としたまま部屋を見回していると、男は迷いなく部屋の中を突っ切っていく。

 そして適当に戸棚から引っ張り出した服を俺へと投げ渡した。


「そら、着替えろ」


 受け取った服を広げてみると、皆が着ているような服だった。

 制服なのだろうか。

 結構だぼついているけれど、この際ゲロ臭くなかったらなんでもいいかという残念思考になっていたので素直に礼をした。


「ありがとうございます」


 早速着替えると予想外にぴったりだった。

 だぼついていると思ったのは丈が長かったかららしく、それは仕様で、着てみると案外違和感がない。

 コスプレみたいだと服を見下ろしていると、男が手を差し出す。


「その臭い服を寄越せ」

「え、はいどうぞ」


 男に着替えた服を渡すと、その服をそのまま暖炉にボーンと投入。炎に包まれた服はメラメラと燃え上がった。

 あまりの急展開に俺は思考が追い付かずに固まってしまったが、すぐにはっと我に返った。


「ええええええ!?なにしてるんすか!!!?」

「汚ぇし、もう着ないだろ」

「確認されてない…!!」


 それなりに愛着のあった制服が…っ!!

 アワアワと眺めていたら、優しかった男が豹変した。


「うっせえ、もう燃やした。ほら早く皆を起こしてこい!!仕事しろ新入り!!!」

「は、はいいい!!!」


 あまりの怖さに言われるがままに部屋を飛び出し、寝こけている皆を起こしにいったのだった。




 このあと判明するのだが、介抱してくれたこの人。

 バルバロはここのアジトのボスであった。


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