最終話:ふたりの行く末。

「待たせたな明日香ちゃん」


「あ、悟空ちゃん!!」


「え?悟空ちゃん?」


明日香ちゃんの声で俺は振り返った。

そこにはドラマや劇で見たことのある孫悟空が岩山にふんぞり返っていた。

伯翔李天の青龍刀は俺の首をハネる前に悟空の如意棒で受け止められていた。


「おい伯翔李天はくしょうりてん・・・久しぶりだな・・」


「ケッ悟空か・・・」


「やい!!エロ親父、明日香ちゃんのことは諦めて、おとなしく天界へ帰れ

でないとそのどタマかち割るぞ」


「え〜い洒落臭い・・・現役を退いたおまえなぞ私の敵ではないわ」


「やるか?エロ親父」


「後空ちゃん、迷惑かけてごめんね」


「遠慮すんなって・・・俺と明日香ちゃんの仲じゃねえか」


「明日香ちゃん・・・孫悟空とどういう関係?」


「悟空ちゃんが天界で蟠桃って桃の木の番人してた時、いろいろお世話

してあげてたの」


「いろんなお世話って?」


「お世話はお世話・・・全部言わなくても分かるでしょ」


「え?なに?・・・俺と悟空ってもしかして兄弟?」


「だね・・・でも今は辰也君一筋だよ・・・信じてね」

「あ、ああ信じてるけど・・・いったい何人兄弟がいるんだよ」


「さ〜て、エロ親父、一気に天界までぶっ飛ばしたやっからな」


悟空が怒鳴った。


「小賢しい・・・返り討ちにしてくれるわ」


「来い、悟空!!」


「お〜い、待て待て・・・ちょっと待て、俺たちもいるぞ」


「あら、八戒ちゃんに悟浄ちゃん」


「八戒?・・・悟浄?・・・明日香ちゃん、あの二人も呼んだのか?」


「全員集合・・・久しぶりの同窓会みたいね」


「悟空、久しぶりだな」 


そう言った猪八戒は元の天蓬元帥てんぽうげんすいに戻っていた。


「何年ぶりかのう?」


そう言った沙悟浄も元の捲簾大将けいれんたいしょうに戻っていた。


三蔵法師について旅をしていた時は、ふたりとも醜い妖怪だったが

元々は超イケメンの武将なのだ。


「おまえらも来たのか・・・俺ひとりで充分なのに・・・」


「え〜い三人まとめて切り刻んで豚の餌にしてやる」


三人の豪傑出現によって伯翔李天は我を失った。


エロ親父は自分の一番近くにいた八戒に挑みかかって行った。

伯翔李天の青龍刀を九歯のまぐわ「くまで」で受けとめた八戒は

そのまま青龍刀を弾くと思い切り伯翔李天の頭を沙悟浄のほうに向かって

張り飛ばした。


「悟浄〜いったぞ〜」


「おう、任せとけ」


そう言うと沙悟浄は飛んできた伯翔李天の尻を「降妖宝杖こんようほうじょう」で思い切り

ぶん殴った。


「悟空、あとは任せたぞ〜」


「おうよ!!」


自分に向かって飛んできた伯翔李天・・・悟空は如意棒をブンブン振り回して

おいてエロ親父の腹を思い切りなぎ払った。


伯翔李天は三段回にぶちかまされて月まで飛んで行って頭から突き刺さった。

今、望遠鏡で月を見ていた少年は月に突き刺さった伯翔李天を見ただろう。


「バカが・・・これで懲りただろう」

「二度と明日香ちゃんには手は出さんだろうよ」


悟空は勝ち誇ったようにそう言った。


「悟空ちゃんありがとう」


明日香ちゃんは尊敬の眼差して悟空を見た。


「どうもありがとうございました・・・あの俺、「高坂 辰也こうさか たつや」って言います」

「伝説の人にお目にかかれて光栄です」


「な〜に、ふたりとも困ったことがあったらいつでも力になるぜ」

「ところでよ、明日香ちゃんおまえ今はこのニイちゃんとできちゃってるのか?」


「うん・・・今はこの人一筋」


「そうか、人間か・・・まあ、それもいいや、ぜいぜい幸せにやんな」


「ありがとう」

「八戒ちゃんも悟浄ちゃんもありがとうね」

「明日香ちゃん、健やかにな・・・また会おう・・・じゃ俺たちは撤収

するからな」


そう言って猪八戒と沙悟浄ば天界へ帰って行った。


「悟空ちゃん、元気でね」


「ふたりとも達者でね・・・あばよ」


俺と明日香ちゃんは悟空にお礼を言って、またキン斗雲を借りて天界の

沙羅宮しゃらんきゅうで暮らすことにした。


天界で俺は写真を撮りまくった・・・幻想的な写真がたくさん撮れて

立派な写真集ができそうだった。

もちろん明日香ちゃんの「天女のたわむれ」もできあがった。


だけど俺は元来、のんびりとじっとしていられない性格。

このまま沙羅宮で明日香ちゃんと雲海を眺めながら、ぷらぷらして

ヒモみたいな生活は向かない。


このままだと病んでしまうと思って思い切って明日香ちゃんに俺の

今の気持ちを打ち明けた。


「明日香ちゃん・・・俺ここで暮らしてくの無理だ・・・

下界へ帰って、また前みたいにカメラ片手に山を登る生活にもどるよ

・・・いや戻りたいんだ」


「辰也君・・・下界に帰っちゃうの?・・・私を放って?」

「私より下界での生活のほうがいいんだ?」


「いやあ、俺は明日香ちゃんのことは大好きだし、愛してる」

「たぶん下界に戻っても君のことを毎日思い出してため息ばかり

ついてると思う」

「でも、たぶん俺はここにいたら、その内病んで結局明日香ちゃん

に迷惑をかけることになるよ」


「だから、ごめん俺と別れてくれ」


「やだ・・・別れたくない・・・辰也君を下界になんか返さない」


「俺のためだと思って諦めてよ、ね」


その晩から朝まで明日香ちゃんは泣き通した。


しかたないんだ・・・俺は明日香ちゃんと別れの挨拶をしないまま

キン斗雲に乗って下界へ降りて行った。


明日香ちゃんと別れて、また以前の生活が戻ってきた。


天から舞い降りてきた天女・・・巡り逢うべきして巡り合ったふたり。

彼女のいない部屋は冷たくて寂しいっちゃ寂しい・・。

毎日のように明日香ちゃんの面影が俺の脳裏をかすめる。


明日香ちゃん・・・。


ある日、俺が愛機のカメラを掃除していた時のこと、ベランダのサッシドアを

誰かが叩く音がした。

そのガラスの向こうにいたのは見たことある女?・・・俺のほうに向かって

手を振りながら覗いていた。


「明日香・・・なにしてる?」


俺はすぐにサッシドアを開けた。


「やっほ、辰也君」


「え?・・・また天界から降りてきたのか?」


「うん、よく考えたら別れることなんかないんだって思って」

「もうエロ親父も来ないんだから、私がここで暮らせばいいだけの

ことでしょ」


「明日香ちゃんは天界で暮らしたいんじゃないのか?」


「天界に未練はないよ」

「私がいる場所は辰也君のところだけ・・・」


「そうか・・・そうだな、明日香ちゃんさえよければ、ふたりここで

また仲良く暮らせばいいんだよ」

「あはは、俺たちってバカだよな」


「ね、だからね、辰也君が、私のこと天女の格好じゃなくて、普通の

人間の女性と同じように今時の服着て髪も下ろしていてくれって言うなら、

私それでもいいよ」


「パンツもちゃんと履くから・・・」


「なに言ってんの・・・そんなことしたら明日香ちゃんの個性がなく

なっちゃうじゃん」

「だから今のまま、そのままの天女の明日香ちゃんが俺はいい」


「それにパンツなんかもう無理して履かなくていいんだよ」

「そのほうがパンツ脱がせる手間省けるからな」


「スケベ」


とぅ〜び〜こんて乳。







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♀そりゃ天女ちゃんは絶対パンツなんか履かないっしょ。(差異遊記編) 猫野 尻尾 @amanotenshi

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