the dark

ゆきのともしび

the dark


PM11:00の空気を 今日も吸い込む


「あなたのことがとても憎い

けれどどうしようもなく 愛しているの」


闇がだれかとはなしている


脳に浸透してくる さざめき



最初にこの感情を抱くのは


たぶん父と母に対してで


樹木のように そこから枝と葉が


不器用に伸びていく


リビングに無造作に置かれた


デパートでもらってきたムエットが


星のさえずりのように かおっている



時間の経ったプチグレンは


まるで掌のぬくもりのようなかおりをしていて


それは母の手なのか 彼の手なのか


いまだにわからない



わかっているのは


ふたりともここにはいない


ということだけ



わたしは闇に問いかける



「ねえ あなたのことを信じてもいいかな」


「あなたがわたしを信じたいと奥底から想うのなら

まよわず信じればいいのよ」


闇がこたえる



冷たい 乳母車のようなやさしい速度で


雲が流れている


オリオン座が  昨日よりも輝いてみえる





わたしは目をとじた







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