第123話 唯一残ったダニエルたる部分
その人間離れした再生力を見た俺はニーズヘッグを呼び寄せるとアイシャとマリアンヌを安全圏まで離れるように命令をする。
何かあってからでは遅いからな……。
「なんだ? アイシャとマリアンヌは逃がしてくれるのか?」
「……こいつらがいるせいでルーカスが本気で戦えないと言うのであれば、妨害する必要もないだろう。俺は本気のルーカスを倒さない限り、この胸の渇きが癒える事が無いし、もしそれで勝った場合唯一この胸の渇きを癒せる事ができる瞬間を見逃した事になるからな……」
そしてダニエルは俺たちの邪魔をする事も無く、彼女たちが離れた場所まで逃げて行くすがたを黙って見守っているではないか。
その光景を少し不思議に思った俺はダニエルに一応聞いてみると『本気を出していないルーカスを倒しても意味が無い』という言葉が帰ってきた。
あの時俺が一方的にダニエルをボコッた事が相当堪えているらしく、容姿が変わり精神を侵されても俺への復讐への怒りは薄れる事は無く、むしろその怒りはかなり大きくなっているように思える。
それこそ、俺を殺す為だけにエルフの国に
それは『ただ俺を殺せればいい』というのではなくて『全力の俺を殺したい』という欲求から来ており『何が何でも俺はルーカスよりも強いんだ』という結果が欲しいという事が伝わってくる。
俺への執着心だけが、唯一残ったダニエルたる部分なのかもしれない。
だったら、せめて人間であったダニエルとして最後は屠ってやりたいと思ってしまう。
それが、この世界の運命を捻じ曲げてしまい、結果その被害者となったダニエルへ、俺が唯一できることなのではなかろうか。
「そうか……分かった。俺もダニエルの望み通り卑怯な手段や手加減などせず初めから本気で戦わせてもらうとするよ」
そして、何故か俺は本気を出す事に思わず笑みが零れてしまった。
不謹慎ながらも『本気で戦う事ができる』と思ってしまったのだ。
何だかんだで今までは無意識のうちに『本気で戦ってはいけない』と思い力をセーブして戦っていたのだという事に、この時初めて俺は気づくことができた。
「嬉しそうだな……」
「そういうお前こそ」
そんな俺の表情を見てダニエルは「嬉しそうだな」と聞いてくるので「そういうお前こそ」と返す。
ダニエルの表情だって、俺に負けずとも劣らずの笑顔をしていた。
それは、嬉しいだとか楽しいとか、そういった感情からくるものではなく『好敵手と出会えた』という喜びからくる笑みである。
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