第119話 別に気にしていないわよ?
だからと言ってこういう、人が荒れている時に好奇心からちょっかいをかけると大抵いい結果に結びつく事はないので、ここはその好奇心には気付かないふりをしてやり過ごすのが一番賢いやり方だろう。
「では何でそんなに怖い表情をしているのかしら……?」
しかしながらそんな俺の配慮などマリアンヌによって一瞬でぶち壊されてしまった。
「こ、怖い表情なんかしてないのですが? むしろこれがいつもの私なので誤解を招くような発言は止めて欲しいわね……っ」
そして、マリアンヌの空気の読めない追及に対してアイシャは『怖い顔などしていない』と否定するのだが、流石にそれは無理があるだろう。
そう思ったのはマリアンヌも同じだったらしく、まるで獲物を見つけた猫のような表情をするではないか。
そのマリアンヌの表情を見て『そう言えばコイツ表向きでは聖女っぽい振る舞いをしてはいるが、腹黒い内面を持っているしたたかな女』だという事を思い出す。
「まさか、高いところが苦手だとか……というのではございませんわよね? SSS級冒険者ともあろうお方が……?」
「と、とととととっ、当然ですっ!! ここから万が一落ちてしまった場合、助かる方法はないものかと今も常に考えていたりなどしておりませんっ!!」
そしてマリアンヌはアイシャに向かって『高い場所が怖いのか?』と聞いているのだが、そのマリアンヌの表情は間違いなくアイシャは高い場所が苦手だという事を、確信をもって聞いている事が窺える。
その事を、高い場所が苦手であるという事を見抜かれているとは気付いていないようで(というか気付ける精神状態ではなさそう)、マリアンヌの問いかけに必死になって否定するものの『もうそれ肯定しているようなものだろう』というお手本のような反応をするではないか。
「まぁ、アイシャは違うかも知れないが高いところが怖いと思う人も中にはいるだろうし、別にそんな事は良いんじゃないのか? 高いところが苦手だからと言って何が変わるわけでも無い」
「まぁ、そうですわね。わたくしもすこしばかりしつこかった事は謝罪いたしますわ」
「い、いや別に気にしていないわよ?」
アイシャは窓枠に付けられている、降りる時に掴む用の棒をぎゅっと握りしめながらそう言うのであった。
◆
そんなこんなで途中から顔面蒼白になり「じ、実は高いところが苦手……なのっ!!」とアイシャが叫びながらマリアンヌに抱き着き、マリアンヌはアイシャの背中を優しく撫でながら軽く回復魔術をかけてやったりとしながらもなんとか俺たちはエルフの国、ウッドグリーン王国の首都であるエルフェイムの手前まで着くことができた。
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