第107話 …………返せよ、俺の謝罪


 いや、まだマリアンヌが俺の第二夫人と決まった訳ではないのだから、これからしっかりと話し合えば良いだろう。それよりも今は模擬戦に集中する事が先決であろう。


 アイシャは腐ってもSSS級冒険者である事には変わりないので舐めてかかって万が一負けるような事が無いようにしなければ。


「準備はできたようですね……」

「あぁ。待たせたな、すまない」


 どうやら俺が模擬戦へと意識を切り替えるのをわざわざ待っていてくれていたみたいなので、ここは素直にアイシャへと謝罪する。


「いえ、お構いなく。ここで死ぬかもしれないと思ってしまったら怖気づいてしまう気持ちは分かりますので。それに、実際闘技場で私と相対いして『勝てない』と分かってしまったものの、あんな啖呵を吐いておいて自分の女に『やっぱり模擬戦やめるわ』と言えない肝の小さな腰抜けだという事も、ちゃんと理解できてますので」


 …………返せよ、俺の謝罪。


「…………」

「返事が無いという事はどうやら図星のようですが、ここで模擬戦をキャンセルしようとしても許可はしませんので、さっさと覚悟してください」


 そして尚も高圧的に煽ってくるアイシャに、ギルドマスターの顔色がどんどん悪くなって来ており、青から緑へ、そして現在は土色へと変化している。


 流石にこの状況は俺の精神的にも、そしてギルドマスターの精神的及び胃にも悪いのでさっさと模擬戦を始めるとするか。


「おいギルドマスター……」

「は、はいっ!!」

「流石に我慢の限界だからさっさと模擬戦をはじめるぞ。模擬戦開始の宣言をしろ」

「か、かしこまりましたっ!! それでは両者中央へ…………模擬戦開始っ!!」


 そして俺は今回模擬戦の審判兼見届け人として参加するギルドマスターへさっさと模擬戦を開始するように命令し、その命令を聞いたギルドマスターが片手でお腹を押さえながらも別の片手を上げて模擬戦を宣言する。


「まったく、D級冒険者にここまで言われて注意するどころか言いなりになるギルドマスターなど辞めてしまえば良いと思うわ。この模擬戦が終わったら次はギルドマスターへその事も含めて文句を言わなければならないわね……」


 そんなギルドマスターの姿を見てアイシャはため息を吐きながらそんな事を呟く。


「なので、アナタには悪いけれどもこんな茶番はさっさと終わらせないといけなくなったわ」


 そう言いながらアイシャは面倒事が増えて怠そうな表情をしながらストレージから愛用の魔剣を取り出す。

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