第99話 怒らないとは言っていない

 腹の中ではどうなっているのかまでは分からないのだが、それでもその年でかつ帝都のギルドマスターにまで上り詰めた人間が、前回ボコボコにされたからといって年下に頭を下げるその姿は滑稽でしかない。


 そもそも初めから相手を敬っている者は初めからあのような喧嘩腰な態度を取らないので俺にボコボコにされる事も無かっただろう。


 しかしながら、年下というだけで、俺が低ランク冒険者であるというだけで見下してくるような者は、そもそもその部分でしか相手を測れないので、それらが相手に効かずボコボコにされた場合は次の日から何故か大人しくなるというのはこの世界でも前世でも同じなのだろう。


 普段から偉そうな奴ほど撃たれ弱い……いや、撃たれ弱いからこそそれを隠す為に偉そうな態度で誤魔化しているのだろう。


 その為、どうせこのギルドマスターは俺以外の、自分よりも下であると思った者には同じように偉そうな態度を取っているのだろう。


 しかしそれを咎めるつもりもなければ直して欲しいと指摘したり、そんな奴はギルドマスターを辞めて欲しいとも言うつもりは無い。


 それらをギルドマスターに指摘できる者は、ギルドマスターへ代わりとして成り、仕事をする覚悟がある者や、仕事環境が悪いから改善したいと思っているギルド内部の者が対応するべきで、俺の仕事ではない。


 というか、そもそもな話異世界まで来て仕事などしたくないというのが本音である。


 ダニエル討伐に関しては、討伐すれば終わるのと違いギルドの仕事は辞めない限りは定年まで働かなければならないのである。


 それは例え稼ぎが平均よりも高かったとしても、奴隷契約そのもの過ぎるではないか。


 それを選ぶ位であれば俺はニートを選ぶ。


「しかし、この村は王国への国境付近ではないのか……。最悪ダニエルは今、王国側で身を潜んでいる可能性が出てきたな……。どうにかならないのか?」


 話は戻すとして、ギルドマスターが机に広げた地図のとある一か所に指を指す。


 その内容を確認した俺はギルドマスターに目で『王国側へ無料で行ける方法は無いのか?』と訴える。


「ありますが……怒らないで聞いてくれますか?」

「怒らないから言ってみろ(怒らないとは言っていない)」

「冒険者ランクS以上であれば、国境を通過する際に並ぶ必要もなければほぼ顔パスで行けますが……その、ルーカス様の冒険者ランクは今現在Dでございます為、王国のギルドへ一度連絡を回す事しか出来ない事をお詫び申し上げます」


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