第91話 なんだか実感がわきませんわ


「お言葉は有り難いのですが……わたくしは以前のようなわたくしには戻りたくありませんわね……。しかしながらそれがルーカス様の願いと言うのであれば、頑張って前のように対応させていただきますわ」

「いや、マリアンヌが今の方が楽だと言うのであれば無理に戻す必要はない。それで、早速本題と行きたいところだがまずは風呂に入ってきたらどうだ? リラックスするぞ? そしてそれが終わったら食事も出そう。話は食事を食べながら聞いてやるよ。はしたないとかは言うなよ?」


 そして俺は、早速マリアンヌの話を聞こうとも思ったのだが、いかせんマリアンヌから漂ってくる体臭が気になってしまい話の内容に集中できるかいささか不安に思った為、その事には触れずにお風呂へ入るように促す。


 それと、学園で見た時よりも明らかに痩せこけていたので食事も提供する事にする。


「……分かりましたわ」


 そしてマリアンヌは少しばかり疑問に思ったような表情をした後、俺の言葉の裏を読めてしまったのか顔を真っ赤にしながら了承してくれるのであった。



◆ドゥーナside



「…………久しぶりですわね、ドゥーナ」

「そうだな……」

「片や幸せを掴み、方やどん底まで転げ落ちてしまいましたわね……」


 私は一緒にマリアンヌとお風呂に入るのだが、その身体は以前見た時よりも明らかに瘦せており、あれほど女性らしかった肉体は見る影もなく、骨が浮き出ていた。


 そんなマリアンヌは、どこか遠くを見ながら話し始める。


「正直な話あの時のわたくしは、ここだけの話ドゥーナが片足を失い、ダニエルを独り占めできるかもしれないとほくそ笑んでいましたわ……。きっとその罰が当たったのですわ……」


 そして私とマリアンヌは入浴前に身体を洗い、湯船にお互い浸かりながら話を聞く。


「それは関係ないな……あの時は様々な不幸と幸運が重なった結果が今の私だからな。もし片足を失ったのが私では無くてマリアンヌであったのならば私はきっと今のような幸せになれていなかっただろうしな」

「ですが……」

「そこを深く考えたところで答えなど出ないだろう。ようは無駄な考えという事だ。あの時の感情が変わったからと言って結果が変わるわけでも無い……と言えばマリアンヌは怒るか?」

「そうですわね……昔のわたくしならば怒りはせずとも苛立ちはしたかもしれませんが、今は何とも思わない、むしろその通りだと思いますわ……。それにしても……本当に幸せそうで羨ましくもあり、憎くもありますわね。ドゥーナが母になるとは、なんだか実感がわきませんわ」


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