第90話 なんと浅ましく、醜い事か


「ご主人様……ご主人様に会いたいと申す方が訪れております。そのお方ですが白い修道服を着ておりマリアンヌ・ヨハンナ・サヴォイア=アオスタという名前らしく、彼女が言うには元伯爵家長女だと申しております。」


 そんな時、セバスが俺に客人が来ている事を教えてくれる。


 いったこんな時期に誰が俺へ会いに来たのかと疑問に思ったのだが、『元伯爵家』という事には引っかかるものの、どうやら相手はあの聖女マリアンヌというではないか。


「だ、旦那様……っ」

「あぁ、本人かもしれないから一度会ってみる。本人であれば家にあげて話だけでも聞いてみるつもりなのだが、ドゥーナも一緒にどうだ?」

「あぁ。できてば私も一緒にマリアンヌの話を聞きたいと思っていたので、そう言ってくれるとありがたい。 それに、今この時期に旦那様に会いに来た事も引っかかるからな……っ」

「そういう事だからセバス、その者を応接室に案内してやってくれ」

「かしこまりました」


 そして俺はドゥーナに同席するか確認をし、セバスへはマリアンヌを応接室へ連れて来るように指示を出す。


 


「この度は事前に連絡もせず急に訪れてしまい申し訳ございませんわ……」


 応接室で待つ事数分。


 ノックをして俺の許可を確認した後、中に入り勧められた席へ座った女性は急な訪問を謝罪し始める。


「…………随分と雰囲気が変わったようだな、マリアンヌ」

「えぇ……色々とありましたから」

「まぁ、そうだろうな。しかし、以前であれば俺にため口を使われると言い返して来たのだが、それが無いのはやはり違和感があるな」

「……わたくしは既に伯爵家からは勘当されておりますわ……。なのでただの平民風情が公爵家であるルーカス様からため口を使われて怒る権利などございませんもの……。いえ、そもそも学生時代でもわたくしは伯爵でルーカス様は公爵。元からわたくしは言い返せる立場ではなかったはずですのに……今思えばわたくしはあの時『学園内では爵位など関係なく皆平等』という校則によって勝手に強くなったように錯覚していたのでしょう……。なんと浅ましく、醜い事か……っ」


 そしてマリアンヌはそう呟くと過去の自分を思い出して毒を吐く。余程過去の自分が許せないのだろうし、それほどまでに価値観が変わってしまうような事が彼女の身に降りかかったという事だろう。


「俺からすれば今更だから、気にしない。むしろ変に気を遣われると調子が狂うから昔のままでも構わないが?」

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