第87話 砂を喰っているようなもの


 そして、俺の胸に刺された魔剣が脈打っており、俺の命そのものが吸われているのが分かる。


 まるで、魔剣が生きているかのように思えるではないか。


 ありえないとは思うものの、実際にそう感じるし、間違いないだろう。


 現に俺の残っている左手は見る見る皺だらけになってきており、まるで老人の手のようではないか。


「……魔剣が俺を喰ってやがる……っ。 し、死にたくない……っ! いやだっ!!」

「何でそんなに嫌がっているんだ? お前も今まで散々そうやって他人の命を奪ってきたんだろう? だったら近い将来立場が逆転して自分が狩られる側になる事くらい覚悟していたのではないのか?」


 確かに、ダニエルの言う通り俺もいつかはこういう未来が来るだろうとは思っていたし、まともな死に方はしないという事は覚悟していた。


 しかしながら『まさかこんなに早くその時が来る』とは思ってもいなかったし、その覚悟はしていなかった。


 その時がくるとしても早くて二、三十年後くらいであると勝手に思っていた。


「いやだ……いやだ……っ! 死にたくない……っ」


 もっとやりたいことがいっぱいあった。


「あぁ、安心して良いぞ?」

「ほ、本当か……っ!? 俺を殺さないでくれるのか……っ!?」

「あ? そんな訳ないだろ。 お前の仲間も全員ちゃんと殺してやるからお前一人じゃないぞ。良かったな」

「あ……そ、そんな……」


 あぁ…………意識が薄れていく。


「人間の生き血はやっぱ美味ぇな……っ!! 癖になりそうだぜっ!!」


 そして俺は、ダニエルがそう言いながら笑っているのを聞きながら意識が途切れるのであった。




◆ダニエルside



 おそらく俺の記憶が正しければ魔剣に人間の生き血を吸わせたのはこの賊が初めてであった。


 その、あまりの美味さに思わず果てかけた程である。


 この味を知ってしまっては魔族など砂を喰っているようなものに感じてしまう。


 もう、人間以外の生き血は考えられない。そう思えてしまう程の美味さである。


 しかし、まだ俺はルーカスにすら勝てないだろう。


 悔しいが、このバカのように死にたくはないのでここは慎重に行動するべきである。


 それでも、嬉しい誤算ではあるもののS級の武具にA級の効果を持つペンダントを入手できたので、今回食いつくした組織のお陰でかなり強くなれたことだろう。


 それは武具やペンダントは勿論なのだが、数百人もの人間の生き血を吸ったというのも大きい。


 やはり、美味いだけあってか魔剣の成長速度と満足度が半端なく高いのである。


 これならば長くて一か月は魔剣に生き血を吸わせる事を我慢できるだろう。


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