第85話 吐いた唾は飲み込めないぞ?


「あぁ、そうだな。ダニエルの取った行動を全て俺のせいにしてたらキリがないし、例え俺に負けた事が切っ掛けであのような事をしでかしたのだとしてもそれはダニエルの弱さが招いた結果であり、俺のせいではないよな……ありがとう」


 そして俺は、悪い方向に思考を巡らせ始めてしまいそうになったところをドゥーナが止めてくれたので素直に感謝の言葉を伝える。


 するとドゥーナは俺に寄り添ってくれるではないか。


 たったそれだけで精神が安定するのだから大したものだ。


 そんなドゥーナは微笑みながら少しだけ膨らみかけた自分のお腹を優しくさするのであった。


 

◆帝都:賊side



「それで、お前を匿うメリットは何だ?」

「賊を狩っているという黒装束たちからお前たちの身を守ってやるよ」


 俺たちの前に、今話題である『魔族殺しのダニエル』がやって来たではないか。


 賞金首が自ら俺たちの前に現れた理由が気になった俺は、一応その理由を聞くだけ聞いてみる事にする。


 とは言っても聞くだけであり、裏ルートで帝国に売り渡すつもりだ。


 そして魔族殺しのダニエルは、今賊たちの間で噂になって来ている黒装束の二人組から守ってくれると言うではないか。


「そんなものが俺に必要だとでも思っているのならば、少し俺の事を見下しすぎやしないか? そもそも賊を狩っている黒装束の二人組は俺たちの獲物だ。お前ごときに渡すつもりはねぇよ」

「…………」


 そもそもこの俺様に護衛など無意味であるという事をこいつに分からせる必要があるようだ。


「何だ? その目は」

「いや、あの時アイツが俺を見て感じた感情はこんな感じだったのかな? と思っただけだ。確かに、雑魚が強者と分からずに吠えてくるのは滑稽だな……」

「あ? 誰が雑魚で誰が強者だって?」

「俺が強者で、お前が雑魚に決まっているだろうが。そんな事も分からないから雑魚なんだよ」


 裏稼業はメンツが全てである。


 面子を汚されたら、それは裏稼業としての信用も汚されたと同じことであり、そのままシノギで稼げる額へと直結する訳で、流石にただ捕縛して帝国に突き出すだけでは済まされないだろう。


「そうか、なら雑魚だという俺に負ければどうなるんだ?」

「俺がお前に負ける? あり得ないな。雑魚は雑魚だから雑魚なんだよ。 そんなに俺よりも強いと信じて疑わないのならば早くかかってこいよ。現実を教えてやるからかかってこいよ」


 流石にここまで言われては、望み通り現実を教えてやるとしよう。


「吐いた唾は飲み込めないぞ? 小僧」



 

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