第79話 夜這い
しかしながらそんな可愛気のないわたしに旦那様は美しいだの可愛いだのなんだのと言ってくれるではないか。
それが慰めから来る言葉であるという事くらいは理解しているのだが、それでも今までそんな事を言われた事もなければ、女性として見てくれた事など無い私からすれば、嘘でも女性として扱ってくれる事に嬉しいと思ってしまう。
それをしてくれるのが好きな異性であれば猶更であろう。
そして今私はその好きな異性との関係は夫婦であり私の旦那様なのである。
これがもし夫婦でも恋人でも何でもない関係であれば私はここまで素直になれずに、ずっとやきもきしていたであろうことが容易に想像できてしまうのだが、既に婚姻しており私の旦那様であるという事は私の好意がバレたところで何も変わらないという最高の環境なのである。
そのお陰で私は旦那様に日々隠す事も無く好意を向けているのだけれども、まだ大人の関係には成れていないのが少しだけ不安に感じてしまう事もある。
というか恐らく私が夜這いをすれば旦那様は受け入れてくれるのだろうが、流石にまだそこまで勇気をだせる程には自分をさらけ出すことができないでいる。
そんな中途半端な私をみて旦那様の執事であるセバスさんから『旦那様は唐変木かつかなりの奥手でございます。恐らく旦那様はどうせ『自分から誘った場合ドゥーナがこの家に嫁いで来た背景やフェニックスの尾使った恩やら負い目やらなんやらで嫌だと思っても断ることができないのではないか、などと要らぬ心配をして手を出せないでいるのでしょう』と、何故旦那様が私に手を出せないのかというのを推測ではあるものの話してくれた。
確かにそう思い当る節はあるし、それこそ産まれた頃から旦那様の事を間近で見守ってきたセバスさんが言うのだからほぼほぼ間違いないのだろう。
それでも一歩踏み出す勇気が持てない私にセバスさんは『ここでうじうじとしていると、他の女性に奪われてしまいますよ? 今のルーカス様は昔と違いかなり女性人気も高いでしょうしここタリム領は軌道に乗れば他の貴族から政略結婚として娘を嫁がせに来るはずです。そうなる前にルーカス様と子供を作って置けばおいおい第一婦人としても後から来た者に舐められてしまう事も無いかと。まぁ、ルーカス様がドゥーナ様以外の女性を娶るかと言われれば疑問ですが、そういう未来も無いとは言い切れませんので』と言うではないか。
セバスさんの言葉は私の胸に突き刺さり、ようやっと私は旦那様を襲う……ではなく夜這いをしてみようと決心がついたのである。
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