第74話 嫌になる
そもそもわたくしはダニエルが猫を被っている事を見破っていた。
本当は承認欲求の塊であり、ハーレム願望やプライドも高い。それも並みの人間以上に。
しかしながらわたくしはそれで良いと思っていたし、だからこそあれ程の才能があるにも関わらず努力を怠らない原動力にもなったのだろうと理解もしていたつもりであった。
そしてわたくしはそれを受け止める事ができるだけの覚悟と器があると勘違いしていたようである。
実際に猫を被る事を止めて好き勝手に振舞うようになったダニエルとは、とてもではないが将来を見据えて一緒になるなど到底考えられない。
結局わたくしは、ダニエルの事すら『道具』としてしか見ていなかったのだろう。
きっとダニエルならば偉業を成してくれるだろう。ならば今のうちに青田買いをして将来ダニエルの功績を妻として甘い汁だけ吸えれば良いと思っていた。
それがある種の女性としての幸せだと思っているし、その考えは今も変わってはいないのだが、その相手にダニエルでは厳しいのでは? と思ってしまう。
その考えは『ダニエルの事を信頼しているからこそ』だとか『なんだかんだ言ってもわたくしはダニエルの心の支えになるのだし』などと考えていたのだが、今だからこそそれら感情が『わたくしがダニエルに寄生する為の体のいい言い訳』でしかないという事が分かってしまった。
それは、わたくしはダニエルの事を一人間ではなく『わたくしの人生を彩ってくれる為の道具』としか思っていない何よりもの証拠であろう。
ダニエルの性格を理解した上で本心からダニエルの事を想い、ダニエルの事を考えていたというのであれば、ダニエルが猫を被る事を辞めたからといってもわたくしは変わらずダニエルの事を想い考えて行動できていたはずである。
そしてわたくしは、そんな打算的で最低な自分自身の醜い部分を見て見ぬフリをして今まで逃げてきたのであろう。
「…………もう勝手にすれば良いわ、ダニエル。わたくしも勝手にいたしますわ」
だからといって『だからこそダニエルを支えなければ』とならず『だからこそダニエルとは縁を切る』という判断をしてしまうわたくしも、嫌になる。
「お前も……お前も俺の事を馬鹿にしているのか?」
そして、例のクマ型の魔獣を倒して悦に浸っているダニエルに向かってわたくしは縁を切る旨を告げると、ダニエルは怒りの感情を隠そうともせずわたくしに詰め寄る。
「どういう意味かしら? 別にわたくしはダニエルを馬鹿にしているからとかではございませんわ。ダニエル、貴方は──」
「どうせお前もあのクズに負けた俺を馬鹿にしているんだろっ!!」
「だれもそんな事は言っておりませんわ……っ。そのように自分勝手に行動して、自分の思い通りにならなければ激昂し、相手の言い分を聞こうともせずに話を遮り憶測で相手を罵る……。こういう所について行けないと感じたからでありルーカスに負けたからではございませんわ」
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