第73話 打算的で、最低なのだろうか
◆
わたくしはあのクマ型の魔獣が現れ、ドゥーナが犠牲になった時、ドロッとした黒い感情に満たされていた。
これでダニエルを独り占めできると思ってしまったし、実際にそうなった。
そして片足を失ったドゥーナは学園を去り実家に帰ったと聞き、安心した。
万が一学園に残ってしまいダニエルがドゥーナに対して罪悪感を抱いており、介護なんかし始めた場合、折角優位な立場になれたにも関わらずドゥーナにダニエルを奪われてしまう。
そう思ってしまったのである。
つくづくわたくしは最低な女だと思う。
そして、そんなわたくしが聖女だなんだと持て囃されている現状も気持ちが悪い。
ボタンを掛け違えている服を気付いているにも関わらず直す事もせず過ごしているような、そんな気分である。
しかしだからといてわたくしの中の黒い部分を、ダニエルを含めた他人に教える程の勇気もなく、いつかバレてしまうのかも知れないという恐怖とともに毎日過ごしている。
そんなストレスを抱えながら学園生活を過ごしていると、ドゥーナが学園へ一度戻って来るというではないか。
それも、あのルーカスの嫁としてである。
その時わたくしはドゥーナの事を本心から可愛そうだと思ってしまった。
それはドゥーナが『ダニエルの恋敵にはなり得ない』と分かりきっているからこそ、やっとドゥーナの事を一人の人間として見る事ができたのであろう。
そんなわたくしが自分ですら恐ろしくも思う。
敵だと判断したら仲間であっても不幸を望むなど、聖女としてあまりにも相応しくない。
中身は最低な女である。
そして、ダニエルとルーカスが相対する時、ダニエルとルーカスの反応を見て私は何故か安心してしまう。
表では良い人を演じてその化けの皮が剥がれたダニエルに対して、表ではクズを演じて中身はまともなルーカス。
外面だけ良くて腹黒いわたくしにダニエルはピッタリで、表裏のないドゥーナにはルーカスがピッタリではないか。
そう当時は思い、自分の中で納得したのだが、それ以降ダニエルと共に過ごせば過ごす程に『やっぱりダニエルとはやっていけない』と考え始めるわたくしがいる訳で……。
どこまでも打算的で、最低なのだろうか……。
しかしながらダニエルと一緒にやっていける未来が見えないのもまた事実で、もうどうすれば良いのかわたくし自身分からなくなっていたし、ダニエルもダニエルでルーカスに負けてから善人を演じる事を止め、常に強さを求めるようにもなった。
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