第69話 馬鹿な女である
自分の感情をさらけ出すのは恥ずかしいのだが、それ以上に旦那様に一生に疑われて生きていく事の方が私にとって辛いと感じてしまった。
そして、かなり強引ではあるものの私のお父様が無しえなかった事を簡単にやってのけた旦那様の話を聞いて、気が付いたら私は旦那様の手を握ってしまっているではないか。
その事に気付いた私は恥ずかしさから握った手を解こうとしたのだけれども、ここで解いたところで『私から手を握ってきた』という事実は旦那様に伝わっているので今更であろうし、それに解いてしまった場合、旦那様に要らぬ誤解を与えてしまいかねない。
であればここは引くところではなく攻める所だと判断した私は恥ずかしいという感情を押しのけて、勢いのまま旦那様の肩に私の頭をコテンと乗せてみる。
たったこれだけの事なのだが私は恥ずかしさから頭から火が出るのではなかろうかと思うくらいに身体が熱くなっているのが自分でもわかるし、恐らく今の私の顔は他人が見ても一目で分かる位には真っ赤に染まっている事だろう。
それでも旦那様が嫌ならば素直に引こうと思っていたし、その旨を旦那様へちゃんと伝えた。
これで恐らく旦那様は私が傷つかないように配慮しつつ優しく引き剝がすのだろうと思っていたし、そうされても仕方がないと半ば諦めていたのだが、次の瞬間旦那様は私の肩を少しばかり力強く抱き寄せたかと思うと、そのまま私の頭を撫でてくれるではないか。
一瞬、一体何が起こっているのだろうかと混乱してしまうのだが、理解してからは呼吸ができないのではと思えるくらいに(実際に呼吸が一瞬止まってしまう)喜びの感情によって満たされる。
今思うと、私の事をしっかりと一人の人間、一人の女性として考えてくれたのは旦那様だけであると理解できる。
結局お父様は所詮政略結婚の駒でしかなく、ダニエルは自分が好きな女性ならば誰でも良いという感じであった。
そもそもダニエルのような人間であれば、私の思わせぶりな態度やあからさま誘いに対して何も考えずに欲望のまま受け入れてしまうだろうし、その時かぎりの甘い言葉を使って私の承認欲求を満たしていただろう。
結局私はその程度の女だったからこそ足を失った瞬間に見捨てられたのだ。
その為、昔の私に『ルーカスと結婚できて幸せだ。ダニエルと結婚しなくて良かった』と言ったとしても、一人の人間、一人の女性として見てくれるその幸せに気付かなければ信じてくれなかっただろう。
馬鹿な女である。
しかしながら馬鹿な女だったからこそあんな事件が起きて、結果今旦那様の隣にいられるのだから人生というのは分からないものである。
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