第58話 流石にそれは道理が通らない


 しかしながらこいつが崩れるまで待ってやるほど俺も優しくは無いので、フェイントを入れて翻弄し、一気に崩しにかかると、ものの数秒で簡単にオリバーは崩れ、その左頬へと俺の拳をめり込ませる事ができた。


 そして、俺の拳を喰らったオリバーは錐揉み回転しながら吹き飛んでいき、少し先にある崖へとぶつかって止まる。


 相手がただ喧嘩を吹っ掛けてきた相手であれば追い打ちはせずにここで終わらせるのだが、殺そうとしてきた相手にそんな情けは必要ないだろう。


 オリバーが吹き飛んでいった所まで行くと、壁に身体が半分めり込んでいるオリバーの髪の毛を掴み引っこ抜くと、そのままの勢いで馬車がある方向へと投げ飛ばす。


 すると、流石に足や腕が折れていたみたいで受け身を取る事もできずにゴロゴロと数メートル転がってから止まる。


「で、Sランク冒険者様が何だって? 速いだけではなんだかんだと言っていた様に聞こえだが?」

「ゴフ……ッ。 あ、そ、その、許して──」

「許す訳がないだろう? お前殺そうとした相手に返り討ちにあって自分は殺されたくないって虫が良すぎるだろうがよ、流石に。自分でケツを拭く事も、その覚悟も無いんなら初めからこんな依頼受けてんじゃねぇよ」


 流石にそれは道理が通らないだろう。


「あ、謝るっ!! 謝るからっ!!」

「は? 貴様の謝罪に何の価値があるんだ? そんな価値があると思ってんなら底抜けのバカじゃなくてどうしようもないバカだな、オリバー君は」

「旦那様、少しいいか?」

「……どうした? ドゥーナ」


 とりあえず報復されるのも面倒くさいのでいっその事ここで殺してしまおうかと思い、骨すらも残さない威力の炎魔術で燃やし尽くしてしまおうかと思っていたその時、今まで馬車の残骸に身を潜めていたドゥーナが、何か言いたいことがあるのか俺の元までやってくる。


「ここでこの者を殺してもメリットは無いだろう。もし仲間がいれば結局報復されるであろうし。ならば録音という証拠と共にコイツを突き出してギルドへ報告しに行った方が良いと思うのだが? そうすればギルドサイドも旦那様に『暗殺しにきた冒険者をわざわざ殺さずにつれて来てくれた』という借りができるからな。それに、生きて償わせてやりたいと思ったからだな。こいつはこれから罪人として一生ギルドで飼い殺しが決定だろうし、Sランクとして威張り散らしていたのが罪人奴隷として雑用を押し付けられる方が鬱憤も晴れるというものだ」


 ふむ、確かにここで殺してしまうよりかはギルドで生き恥をかきながら死ぬまで飼い殺されるのもありだな……。


 しかしながら、学園長に関しては他の貴族に舐められても困るので確実に殺す事は決定事項である。

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