第56話 バカなのだろう。


「そうか……ならその顔面をぶん殴っても文句は言うなよ?」

「いやだなぁ、君みたいな温室育ちのクズがこの俺の顔面を殴れる訳が無いじゃないかっ! ひぃっ! ひぃっ! 笑わせないでくれよ……っ!」


 俺がそいつに向かって顔面を殴ると言った事がツボに入ってしまったのか腹を抱えて笑い始めるではないか。


「いや、別にそう思うのは別に構わないけどできない事は言わない方が良いよ?」

「そうか。ならお前こそ俺たちを殺すなどという出来ない事は言わない事だな」

「……言うねぇ。これだから貴族は馬鹿だから嫌いなんだよ……」


 そして俺がこの青年から言われた事をそっくりそのまま返してやると、それがかなり腹が立ったのか青年の雰囲気が優男風からガラッと変わり、ピリついた雰囲気を出してくるではないか。


「あの糞ジジイも俺たち冒険者の足元を見やがって。文句を言わないからといって俺よりも上だという訳ではないぞボケが。殺そうと思えばいつでも殺せるんだよ……。でもまぁ、その依頼で俺は今まで殺したいと思っていた貴族を殺す口実ができたんだ。例え俺の行いがバレたとしても依頼したのはあの糞ジジイだからな。単独で貴族を殺すよりも『貴族から殺せと命令されては断る事ができなかった』とでも言えばほぼ無罪放免だろう」


 そして青年はベラベラと、何で俺を殺しに来たのか喋るではないか。


 もし俺に倒されたらなどという事は一切考えておらず、その場合に想定される『最悪な事態』を予測する事を放棄しているのだろう。


 だとしても、普通であればそんな重要な事は絶対に暗殺相手にベラベラと喋って良いわけが無い。


 バカなのだろうか? バカなのだろう。


「そうだな、お前とは話す事も何もない事は分かったし、誰が俺へ暗殺依頼を仕向けたのかも分かった。そして先程のお前の発言はしっかりと録音できる魔道具で録音させてもらったからお前を生かして証人として突き出す必要も無いわけだ。殺そうとしたんだ。逆に殺されても文句は言えないよな?」


 そして俺はそう言うとスキル【縮地】を使い、一気に加速して近づくと青年の左頬目掛けて力の限り殴りかかるのだが、躱されてしまう。


「あぁ、言い忘れたんだがな、俺はこれでもSランク冒険者なんだ。さっきの攻撃には確かにビビりはしたんだけど、早いだけじゃこの俺は倒せないぜ? 因みに必要は無いかもしれないけど一応自己紹介でもしてやろうか。自分が誰に殺されるのかくらい知っておきたいだろうからな。俺の名前はオリバー、Sランク冒険者だ」



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