第50話 生き延びる事ができた


 うん、良い感じでここタリム領のイメージ回復に繋がっているのは棚からぼた餅と言えよう。


 しかしながら全員を教育係に任命する事はできないという問題も同時にできてしまった。


 他の領地では引退した冒険者は無価値であると見向きもしないのだが、俺はそうは思わない。


 引退した冒険者とは当然その分だけの実力がある者もいれば、実力が無い者も生き延びていく知恵がある者、もしくはその両方を持っている者も多い。


 だからこそ冒険者稼業で定年まで生き延びる事ができたのだろう。


 ちなみに今回の土木関係、道路修繕課とでも仮でつけるとして、この道路修繕課で募集する者には武術を心得ている者は少ないので、ここで必要なのは『知恵で生き抜いてく術を教える事ができる者』となり『武力で困難を蹴散らす術』は必要ない訳ではないが前者の方を求めているのもまた事実である。


 そうなってくると『昔高ランク冒険者であった引退者』が余りやすくなるのだが、それはあまりにも勿体なさ過ぎるだろう。


 その為この者たちには冒険者ギルド育成学校を作り、そこで講師や、我が領地を守る騎士の育成をしてもらうかと思っている。


 知恵や技術は一朝一夕で培われるものではないので、それを無駄にせず次世代へ紡いでいく流れを俺の領地では組み込めたなら、と思う。


 確かに冒険者という稼業は全てが自己責任であり、知識が無くて死ぬのも実力が無くて死ぬのも自己責任というのも分かる。


 だからこそ現役時代はその知識はライバルでもある他人に教えたくないと思うその気持ちは分かる。


 しかしながら知識があれば、実力があれば助かった命があるというのもまた事実である。


 その助かった命の中から英雄と呼べるレベルの者が産まれる可能性もあるのだ。


 その可能性を潰すのはあまりにも領地としてマイナスでしかない。


 冒険者稼業としても有名な領地になればそれだけで領地は潤うのだから。


 武具を作る職人から、それを売り捌く商人は勿論、それらが生活する為には衣食住が必要であるし、当然それらを捌く店や商人も訪れるようになるだろう。


 にも関わらず『平民だから』『冒険者などは荒くれ者の集まりだから』だとかいうフィルターをかけ生かそうとしてこなかったのは、領地を経営するものが貴族である弊害でもあったのだろう。


 そして何よりも俺にはドゥーナが嫁としている訳で。


 ドゥーナの実家であるフォング家は武闘派といわれるだけあって、まさに数少ない冒険者の聖地と言われるくらいには冒険者稼業で潤っている領地であり、そのノウハウをドゥーナから教えて貰える事ができるのだ。


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