第46話 ここまで酷い有様とは

「あぁ、分かった……恥ずかしいから、一回だけだぞ? ドゥーナは俺の妻だ……っ」


 それは胸の事やら素数の事やら頭の中から消えてしまう程恥ずかしいと思ってしまうのだが、俺の為にダニエルに怒ってくれた妻の為に俺は恥ずかしさを我慢しながら今一度『ドゥーナは俺の妻だ』と言ってあげる。


 これでドゥーナが喜んでくれるのであれば安いモノだろう。


 恐らくドゥーナは片足を失ってから、自分を必要としてくれる誰かを強く欲しているのだろう。


 それが例え、忌み嫌っている俺という存在であろうとも、そしてそんな相手から妻だと言われる事だったとしても。


 なので今はある意味でドゥーナを精神的にサポートしていき、マイナスまで下がってしまっているであろう自己肯定感をプラスに持って行くことができればと、俺は思うし、俺が少しばかり恥ずかしい思いをするだけでドゥーナの自己肯定感がプラスになるのであれば安いものであろう。


 そんな事を思いながら学園の敷地内の駐車場に停めていた馬車に乗り込もうとしたその時、何故か馬車で俺たちを待ってくれていたセバスから『まさかここまで酷い有様とは……。唐変木という言葉ですら生温いですねぇ……』という視線を俺へ向けてくるではないか。


 いや、もしかしたら俺の勘違い、思い過ごしかもしれないのだが、あの目はどう見てもそう言っているとしか思えないのだが?


 そもそも前世では数多の女性(大人の恋愛ゲームに出てくるヒロインたち)を攻略してきたこの俺に対して、そのような視線は流石に失礼ではなかろうか?


 しかしながらそれを言った所で理解してくれるとも思えないので、俺は言い訳も否定もすることなく馬車の中へと入り、先に入っていたドゥーナの隣に座る。


「それで、何故これからギルドへ向かうのか教えて貰っても良いか? 勿論話せない内容であるのならば話さなくても良いのだが、私たちは旦那様と妻で呼び合う仲なのだから私も少しくらいは旦那様の役に立てる事ができるようにこれからは様々な事を知っておきたのだ……っ」


 そしてドゥーナはやる気満々といった表情でそう聞いてくるのだが、どうしようか。お互いの呼び方については一応突っ込んだ方が良いのだろうか?


「そうだな、ギルドへは学園へ融資していた全額を取り立ててもらうよう依頼をしに行く予定だ。こういうのは早ければ早い程良いと思うし、自分でやる時間も無ければ、ギルドという他国にも繋がっている巨大組織であればまず取りっぱぐれる事も無いだろうしな……」

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