第35話 無視だ無視
「そう言ってやるなよ。俺の両親が死んでから一か月近く経っているんだ。親からなんやかんや引き継ぎ終わってひと段落している頃だと思っているのだろうし、そもそもこれほど大規模な、それこそ開拓と言っても良いレベルで新たに領地経営をしている等とは誰も想像がつかないだろう。それに、俺も現状について学園へ手紙を送らなかったしな。これに関しては俺の落ち度もある」
「それは……そうなのだが」
「それに、幸いなことに『近い未来の為にしなければならない事』は大量にあるのだが『今すぐにでもしなければならない問題』に関しては既に終わらしてあるし、この家にはセバスを初め優秀な使用人たちがいるから多少家を空けても大丈夫だろう」
ちなみに優秀でない使用人に関しては既に排除済みである事は言う必要は無いだろう。
「…………分かった。しかし、私の我が儘を聞いてもらってもいいか?」
「我が儘? とりあえず何か聞いてみない事には良いも悪いも判断できないから、とりあえず言うだけ言えばいい」
そしてドゥーナは俺の話を聞いて納得はしてくれたものの、何やら俺にして欲しい事があるそうで、顔を赤らめてもじもじとしながら話し始める。
その姿を見て『トイレならば行ってくれば良いだろう?』などという、空気の読めない俺ではないので素直に話の続きを、できるだけ優しい声音で促してやる。
「その……学園へ戻る時に私も一緒に付き添っても良いか? あの……その……これでも一応私はルーカスの嫁という立場でもあるしな」
そう顔を赤らめて言うドゥーナなのだが、恐らく友人たちとの別れの挨拶か、復学する為にまず現地に行ってからその旨を学園長へ伝えるかのどちらかであろうに、これのどこに恥ずかしがる必要があるのだろうか? まさか俺に惚れており、惚れた相手と離れたくないから等という訳でもあるまいに。
そんな事を思っていると、セバスからの痛い視線に気づき振り向くと『まさかここまで致命的な鈍さだとは……。 これは詐欺まがいとはいえ奥方様を娶れたことは幸運だったかもしれませんな……』と思ってそうな表情をしているではないか。
解せぬ。
確かに俺も『ドゥーナは俺に惚れているのではなかろうか?』と考えはしたのだが、そんなもの思春期男子の思い描く妄想レベルではないかと言いたい。
それを鵜呑みにする方がどうかしているので、セバスの視線に関しては無視だ無視。
「なんだ、そんな事か。別に一緒に行く事の何が問題か俺には分からない。来たければ一緒にくればいいだろう?」
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