第33話 俺は腹が立っていた


「こんな事がまかり通って良いのかよ……」


 マリアンヌの話を聞いて俺がそう呟くと、マリアンヌは少しだけ気まずそうに視線を逸らした。

 

 それが答えなのではないのか?


 本当は、そんな事を貴族の女性は望んでいないんじゃないのか?


 出なければマリアンヌが気まずそうに視線を逸らす訳でもなければ、もっと明るい話題として話す筈である。


 しかし、マリアンヌの話し方はまるで『受け入れるしかない現実』であると自分に言い聞かせていあるかのようにしか俺は見えなかった。


 これではまるで物みたいではないか……っ。


 いったい何処のどいつがドゥーナを娶りやがったのか……見つけて一発殴ってやらなければ気が済まないと思える程には、今俺は腹が立っていた。





 おれは今、領民に対して雨などによって凹凸の出来てしまった道の直し方を教えて、実践させているところである。


 方法は、道を掘った後に土のうを詰めて、その上に土を被せて叩き固める方法である。


 この土のうがあると無いとでは大違いなので、隣の領地から我が領地へと続く道全てに土のうが埋められれば凸凹道もかなり改善されて馬車での移動がしやすくなるだろう。


 ちなみに道を直す理由には勿論馬車を行き来しやすくして商人を俺の領地に来やすい環境を作るというのも勿論あるのだが、それ以上にこの領地内の雇用を増やすという方が大きい。


 そして道を直す為に雇った人たちには一日の日給として大銀貨二枚(日本円で三千円ほど)を与えている。


 日本円での価値で考えると大銀貨二枚は少ないように思えるかもしれないのだがむしろこの世界では日雇い労働としてはかなり多い方だったりする。


 そもそも領地から領地への道は歩いて移動すれば数日かかってしまうので、道を直す仕事はかなりの雇用を得る事ができるだろう。


「なるほど、雇用を増やすのと商人を含めた人の流れをスムーズにするために道路の整備をするというのは理解した。だが、何も相手の領地までの半分の距離でいいのでは? これでは相手の領地は無償で道路整備をしてくれるようなものではないか」


 しかしながら俺の話を聞いてもドゥーナは納得している部分はありつつも、損しているであろう部分が気になるようである。


「確かに、損をしていると考えればそうなのだが、領民の為の仕事がその分減らないという事もあるのだ。それよりも『損してでも得られるであろう利益の方が大きい』というのが一番の理由だな。それに帝国全土の道を整備するという訳でもない」

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