第32話 感謝するべきかもしれませんわね
そう思いながら私は旦那様と一緒に用意された馬車へと乗り込むのであった。
◆
「どうしたんですの? ダニエル。ここ最近何かに悩んでいるようですわ」
ドゥーナが『父親に呼ばれたから一度帰郷する』と言って一か月ほど経ったのだが、一向に戻る気配がなく不安になってくる。
そもそもドゥーナの家までは馬車の場合は二週間もあれば往復できてしまう為流石に一か月も帰ってこない、しかもそれだけではなく『遅くなる』などと言った連絡もないなど、流石に不自然すぎる。
ドゥーナであればすぐさま用事を終わらせて学園へと戻ってくるものだと思っていたので、戻って来られない何らかの理由があるのではないかとより一層不安になる。
「いや、ドゥーナが学園へ一向に戻ってこないからどうしたんだろうとな……」
そんな時にマリアンヌが不安げに話してくるのでそのまま今ドゥーナの事で悩んでいる事を話す。
するとマリアンヌは少し複雑そうな表情をしたあと、言い難そうに話し始める。
「そのドゥーナさんですけれども、婚姻する事が決まったみたいですわ……いや、もう婚姻はしているみたいですので今は婚姻相手の家にいると思いますわ」
「……なん、だとっ!? だから学園へ来ないというのかっ!? それではドゥーナの気持ちはどうなるっ!?」
するとマリアンヌは『ドゥーナは婚姻しており、その婚姻相手の家にいる為学園へ来られないのでは』と言うではないか。
「どうなるも何も、私たち女生徒はこの学園で貴族の殿方にアピールをして、嫁ぎ先候補を増やすというのが一番の目的ですわ。たしかに学園に入学して勉学に励む方もいますが、そういう方も結局は貴族へ嫁ぐ事を最終目標にしておりますもの。男生徒においても、勉学よりも貴族間の友人構築という学園へ通う意味は増えますが、女生徒と同じように娶る候補を探している殿方も多いでしょう。だからこそ、既に貴族の元へ嫁ぐことができたドゥーナさんは、言い換えると『学園へ戻る必要は無い』とも言えますし、婚姻相手がそう言ってドゥーナさんを学園へ行かせない気持ちも分かりますわ。それこそそういう目的の男女がいる学園へ戻らせて、悪い虫に食われたり、他の異性へ恋してしまったりしたら目も当てられませんもの……」
そしてマリアンヌは俺の疑問に答えてくれるのだが、その内容にはドゥーナの意見など一切配慮されていない事が窺えるような内容であった。
「それに、片足を失ったドゥーナさんは恐らく実家にも居場所が無く、今嫁いでいる家に捨てられたら、これから先は娼婦くらいしか生きる術はないのでしょう。むしろ、拾ってくれた貴族の殿方が居た事を感謝するべきかもしれませんわね」
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