第27話 断るという選択肢は無くなった
「では、さっそくで悪いのだがフェニックスの尾でドゥーナの失った足を治したいと思うからここのソファーに座ってくれないか?」
「わ、分かった」
そして俺たちは、まるで思春期に付き合い始めた男女のような気恥ずかしさを漂わせながらフェニックスの尾を使う準備を始める。
そんな俺たちを見て使用人たちが微笑ましく見守っているかのように思えるのは気のせいだろうか?
いや、きっと気のせいに違いない。
でなければ先ほどまでのやり取りが物凄く恥ずかしい事をしていたような気分になる為、間違いなく頭を搔きむしりながら床を転がりたくなってしまうだろう。
ちなみにドゥーナも使用人たちの視線に気付いたのか、顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
そして、俺は使用人たちの事は極力考えないようにしながらフェニックスの尾をドゥーナへと行使する。
すると、淡いオレンジ色の光がドゥーナを包んだかと思うと、数秒してその光は収まり、そしてドゥーナの失った左足は見事治っているではないか。
「……だ、旦那様っ!! あ、足がっ!! 私の足が本当に治っているぞっ!!」
その事に気付いたドゥーナは俺へと抱き着いてくるのだが、先ほどと違いわんわんと泣いているその姿を見て、今度はドゥーナに欲情するような事はなく、むしろ貰い泣きをしてしまいそうになる。
人目もはばからずに声を出して泣いてしまう程嬉しかったというのもあるのだろうが、それ以上に左足を失った事で負の感情に押し潰されそうになっていたであろう事は容易に想像できる。
そんなドゥーナを見て俺はフェニックスの尾を入手し、ドゥーナに使って良かったと心から思うのであった。
◆
「旦那様、もしよければ私と模擬戦をして貰えないだろうか? 私の新しい左足を試してみたいというのもあるが、フェニックスの尾という伝説級のアイテムを数日足らず、それもたった一人で入手してきた旦那様の力を見てみたいという欲求が凄くてな……。嫌ならば、残念だが受け入れるので断ってくれてもいいのだが……」
あの日から三日たった早朝。
俺とドゥーナ、そして使用人たちと一緒に朝食を取っているとドゥーナがまるで玩具をねだる子供のような表情で俺に模擬戦をして欲しいと言ってくるではないか。
そんなドゥーナは、俺が嫌ならば諦めるとは言ってはくれているものの、そういうドゥーナの耳はしょんぼりと下がっているではないか。
そんな人狼であるが故に耳と尻尾によって感情がバレバレなドゥーナが可愛いと思ってしまい、その瞬間俺の中でドゥーナのお願いを断るという選択肢は無くなった。
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