第10話 そんな領地に未来など無い


 両親が殺害されていた事で何かしら感付き、領民の為の領地経営を少しでも行っていただければとは思うものの、今までのルーカス様の言動を鑑みるにそれは無理な事であろうことは火を見るよりも明らかである。


 その為期待するだけ無駄だと思い私はルーカス様に対して何も期待していなかった。むしろ、これ以上領民を苦しめるような事をするのであれば今度こそ私がルーカス様を殺害しようとすら考えていた程である。


 しかしながら蓋を開けてみればどうだ? ルーカス様は両親の遺体を見て心の整理がまだついていないであろうにも関わらず、自分の心情よりも領民たちの為にとその日に動き始めたではないか。


 それだけでも信じられない光景であるのだが、ルーカス様が掲げた領地経営の内容は両親よりもマシなどころか、帝国内でも平民にとってかなり好条件な内容であると言えよう。


 今はまだその種が撒かれたばかりであるので、それが領民たちの生活に影響し始めるのはまだ少し先であるとは思うものの、だからこそこの撒いた種がしっかりと芽を出し、根を張り、やがて大木へと成長できるようにと全力でルーカス様のサポートをしようと強く心に刻む。


「ルーカス様……」

「何だ? セバス」

「失礼を承知で申し上げるのですが、ルーカス様は両親の経営について以前から不満を持っていたのでしょうか?」


 あの両親からは考えられないような展開に、私は気が付いたらルーカス様へ疑問に思っていた事を口にしていた。


 その私の疑問を聞いたルーカス様は訝し気な表情を私に向けてきたあと、少し考えはじめる。


「そうだな……。その質問が『私利私欲のための領地経営ではなく領民の為の領地経営へと切り替えたのか?』というのであれば、それは間違いだが『両親の経営に以前から不満があった』というのであれば正解だな」

「……し、しかしルーカス様か本日提示したどの内容も、領民の事を思って考えられたように思え、とても私利私欲の為の内容であるとは思えないのですが?」

「バカか、お前は。少しは考えてもみろ。両親の経営のままでは領民は減る一方であり、それは言い換えるとここタリム領の徴税額が減っていくという意味でもある。だからといって両親のように税金を上げるなどもっての外、更に領民が居なくなるスピードを速めるだけでしかなく、更に当然稼いだもののその殆どが税金で取られるとなれば働くモチベーションも下がり、それだけではなくここ最近では餓死者がみられるようになり子供が成人まで生き残る率まで下がり始めているではないか。そんな領地に未来など無い」

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