第2話 北竜のキラ
ルベリアに自分の話をすると決めたティアは、気まずそうに切り出した。
「まずさ……キミに謝らないといけないことがあるんだ」
「一体何? 私があなたを助けたこと?」
ルベリアは意外な切り出しに拍子抜けした。
「ううん……あの……えっと……一応確認なんだけどさ、キミは、ボクのこと、どう思ってる? その、えっと、正直に教えてよ」
ティアは下を向いてつかえながら話す。
「えっと、とても可愛い女の子だと思うわ。私と同じくらい、というのは信じられないけど」
ルベリアは正直に見たままを答える。
「あのね……あの、その、あのね、まずは、そう、そのことなんだけど……」
ティアはなかなかその先を告げられないでいた。それでも何かを伝えようとしている気持ちにルベリアが応えるように、静かに待ち続ける。
「あのね、えーと、そのあのその……ボクね、その……」
意を決して、ティアが小さく呟いた。
「男、なんだよ……」
ルベリアは目の前の少女を見つめる。
「……そうなの?」
ティアはルベリアを見ていなかった。ただ地面を見つめて、自分の肩を抱いていた。
「ごめん! 黙っているつもりはなかったんだ! だけど、どうしてもキミのそばにいたくて、ボクがこんなことになってるってわかったら絶対嫌われるって思って、それで……」
ルベリアは改めてティアを見つめる。人間の姿はどこをどう見ても少女にしか見えなかった。ルベリアは竜の男女の違いはよくわからない。だから竜の姿のティアも勝手に少女だと思い込んでいた。
人間でも、大人の女性になる寸前の時期に急に少年のような行動をとる少女たちをルベリアは知っていた。そのため、ティアの男勝りのような言動も少女が演じているものだとばかり思っていた。実はその逆で、少年が外見を少女に変えていたことをルベリアは知り、そこまでティアが何かに追い込まれていたことにまずは悲しくなった。
「大丈夫、落ち着いて話せるかしら?」
ルベリアはティアの肩を抱く。動揺しているティアはじっとルベリアの顔を覗き込む。月の光に照らされたルベリアを見つめ、ティアはようやく落ち着きを取り戻した。
「……そうだね、最初から話すよ。ボクのこと」
ティアは深呼吸をする。一番大事なことを伝えた後のせいか、ティアは心なしかすっきりした表情をしていた。
「ボクの本当の名前は、キラ」
ティア――北竜のキラは改めてルベリアに名乗った。
「ボクが生まれたのは北にあるパラレラの里っていうところ。雪がきれいで、たまに魔力の嵐が吹き荒れるここよりも厳しい土地だった。父さんと母さんと、妹と暮らしていた。あいつらが来るまで」
「あれは夜中だった。突然母さんに起こされて『逃げなさい!』って言われて、慌てて外に飛び出したところを人間の武器で撃たれたんだ。後で聞いたんだけど、魔封じの鎖の成分で出来た金属の玉を撃ち出す機械なんだって。それで撃たれた竜はみんな動けなくなった。そこを魔封じの鎖で縛られて、ボクたちはみんなバラバラにされた」
「それからボクは暗い部屋に閉じ込められた。何かあったときに竜が結束しないようにって、ボクらは場所も建物もバラバラにされていた。今もボクの家族がどうなったのかわからない。あの状況で逃げ切れたのか、それともまだどこかに捕らえられているのか、それすらもわからない」
「それからずっと、ボクは人間に魔力を搾取され続けた。もうボクが何をされていたのか知っているだろう? 鱗や爪を剥がされて、肉を削られて、翼をむしられて……最初はボクも痛くて暴れた。でもそんなことしたって無駄だ。魔封じの鎖でしっかり縛られているし、暴れると余計酷いことをされるのがわかったから何もしなくなった」
「それこそ最初はやめろ、何するんだって抵抗したよ。でも奴らはボクをモノだと思ってた。痛いって叫ぶと酷く叩かれたし、最後には喉を潰す薬を無理矢理飲まされたんだ」
「声も出せなくなって、ついにボクから剥がすところがなくなると人間たちはやっと魔封じの鎖をはずすんだ。だけど、その代わり普通の鎖で縛られているし身動きなんてできるはずもない。身体の傷は勝手に魔力で治るんだけど、そうしたらまた魔封じの鎖がかけられてボクは解体されていくんだ」
「何度も薬を飲まされているうちに、ボクは喉が治っても声を出すことができなくなった。抵抗する気も何も起きなかった。ただ苦痛に耐えて、それだけ。逆らってもいいことはないから」
「そうするとさ、何も感じることができなくなるんだ。ただ目を開けているか閉じているかだけの違い。ボクらは基本的に何も食べなくても生きていける。でも暗い部屋では新しい魔力を補充することができない。せめて日の光くらい欲しかったけど、無理だった。何回か明るい部屋に連れていかれたこともあったけど、本当に数えるくらいだ。後はずっと、鎖で繋がれて身体を削がれていくだけだった」
「気がついたらボクはすごく小さくなっていた。それこそキミの部屋にいたときくらいにね。元々はボクだってまだ子供だったけど、立派な竜だったよ。今の姿よりももう少し大きいくらいだったんだ」
「それでさ、たまに聞こえてくるようになったんだ。もうこいつからは魔力は搾れないって。殺されるのか逃がされるのかわからなかったけど、ようやくこの鎖から解放されるんだって、そればかり考えてた」
北竜のキラの話にルベリアは息を飲んだ。コキから事情を聞いてある程度覚悟していたが、それでも捕らえられて搾取される地獄にルベリアも一緒に落ちていくような気分になった。
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