《第6章 奪還計画》
第1話 旅路
ロメール国に戻ることになったルベリアとティアは、夜の闇に紛れて飛んできたコキによって近くの森まで運んでもらった。
「ここから真っ直ぐ行った先にある道を行けばロメールへ通じているはずです。それではお気を付けて」
西竜の里で準備をしてきたとはいえ、ルベリアは不安であった。里の竜たちから竜衣を何枚ももらったので、魔力に関してはあまり心配していなかった。しかし、路銀だけはどうすることもできなかった。食事を必要としないティアはともかく、ルベリアにとって一番の心配はロメールまでの道中であった。西竜の里付近で手に入る食料を持てるだけ持ってきたが、食料が尽きた先のことをルベリアは考えることが出来なかった。
「大丈夫だよ、何とかなるって」
ティアは思いの外呑気であった。少女の姿のままであったが、目立つ髪色を隠すようにティアには目深に帽子を被せて、長い髪をルベリアが編んでいた。
「そうなんだけど、本当に大丈夫かしら?」
「大丈夫だって、いざとなったらボクがリーベを守るから!」
ティアは歩きながらルベリアの腕にしがみつく。
「ちょっと、歩きにくいわよ」
「うーん、もう少しだけ」
2人きりになって心細いのか、ティアはひっきりなしにルベリアに纏わり付いてきた。ルベリアは兼ねてから思っていることをそのまま口にした。
「ティアは、本当に甘えん坊さんなのね」
そう言われて、ティアははっとしたようにルベリアから離れた。
「あのさあ、リーベ……ずっと言わなくちゃいけないって思ってたことがあるんだ」
「なあに?」
ルベリアはティアが自分の話をしてくれることに驚き、その言葉を待った。
「あのね……竜の年齢って人間と違うんだけどさ……多分、ボク、人間で言う君と同じ年くらい、かな……」
目の前の少女はもじもじとルベリアを見上げる。
「……そうなの?」
ルベリアは見た目と振る舞いから勝手にティアを幼い少女だと思っていたので、驚きよりも前に不審に思った。
「うん。ちょっといろいろあって、こういう姿になってるんだけど、一応、年だけは大人なんだよ……大竜様を見ただろう? ボクもほら、そういう感じでさ……」
ティアの言いたいことを、ルベリアは何となくくみ取った。コキの話では、ティアは何十年も捕らえられていたのではないかということであった。少女の際に捕らえられそのまま大人になったのであれば、この振る舞いにも納得がいくとルベリアは改めて北竜の少女を見る。
「そうだったの……」
ルベリアの何とも言えない表情を前に、ティアは下を向いてしまった。
「……リーベはボクのこと、変な奴だって思ってるよね? こんな奴、一緒にいたくないって思ってるよね? 嫌いになるよね?」
今にも泣き出しそうなティアを見て、ルベリアはティアが勇気を持って自分の話をしてくれたのだと悟った。
「いいえ、とっても可愛いって思ってるわよ」
ティアの素性より、ルベリアはティアが少しずつ本来の自分を取り戻そうとしていることが嬉しかった。
「本当!? ボクのこと嫌いじゃない!?」
「今更そんなことくらいで、嫌いになるわけないでしょう?」
ティアはぎゅっとルベリアにしがみつく。自身を否定されてモノのように扱われる苦しさをルベリアはよく知っていた。そして自分よりもおそらく長い期間苦しんできたと思われるティアを慰めるにはどうすればいいのか、ルベリアは思い悩んでいた。
***
ルベリアとティアがくっついて歩いていると、人影のない道で話しかけてくる者があった。
「おい嬢ちゃんたち、どこに行くんだい?」
ロメールの国境を前に、5人のならず者たちが立ちはだかった。
「荷物を置いて消えれば、何もしないかもな」
「その保証もないけどな、へへへ」
彼らは女2人なら脅かせば言うことを聞くと思ったようだった。
「ねえリーベ、こいつらやっつけていい?」
「私たちの邪魔をするなら仕方ないですけど、まずは話し合いよ」
すぐに食ってかかろうとするティアをとりあえずルベリアは押さえた。それから男たちに向かい合う。
「急ぎますので、御用はまた今度でよろしいですか?」
男たちは2人が怖がらず、思いの外堂々としているために調子をはずした。ルベリアの丁寧な言葉に男の1人が激昂する。
「何だこのアマ! 調子に乗りやがって!」
男はルベリアに掴みかかろうとしたが、その前にティアが立ちはだかった。
「ガキはすっこんでな! 俺たちはこの嬢ちゃんに用が、ああ、ああれ!?」
ティアは少女の姿をしているが、その実は魔力の塊である竜であった。男の目の前に飛び出ると魔力を用いて男を掴み、遠くへ投げ飛ばした。
「まあティア、あなた強いのね」
「ある程度力が戻れば、ざっとこんなもんだよ」
「あまり乱暴にしないでね」
ルベリアが感心していると、残りの男たちは更に激昂する。
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ! 相手はガキ1人だぞ!?」
「構わねえ! やっちまえ!」
男たちは4人まとめてティアに襲いかかったが、誰1人ルベリアに触れることはできなかった。ティアに投げ飛ばされた男たちは立ち上がることもできず、地面の上で呻いていた。
「なんだ、大したことないや。行こうよリーベ」
ティアが男たちの懐から有り金を引き抜いた後、ルベリアの手を引く。
「待ってティア……あなたたちにも、神のご加護がありますように」
ルベリアは地面に倒れ伏す暴漢たちに祈りを捧げ、ロメールまでの道を急いだ。
「お金が手に入ったのはラッキーだったね」
「でも、無闇に人を傷つけてしまって……」
ルベリアは正当防衛とはいえ、ティアの強盗行為に心を痛めているようだった。
「違うよ、きっとこれは神様の思し召しだよ。本当はリーベが持つべきものをあいつらが持ってきてくれた、そういうことだよ」
「……そうなのかしら?」
「深く考えない考えない、考えても仕方ないよ。今はロメールに辿り着くことだけを考えなくちゃ」
ルベリアは心なしかティアの声が震えているような気がした。しかしティアの言うとおり考えても仕方のないことであったので、ルベリアも暴漢たちについてはそれ以上考えないことにした。
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