第8話 次の一歩
あれから2ヶ月間俺たちは訓練を続けた。
平日は早朝の体力訓練と夜の魔力訓練。休日は山に行って体力、魔力、戦闘訓練だ。
今日もまた真夜と山で戦闘訓練だ。
真夜は黒いオーラを帯びながら、闇魔法で作ったモーニングスターを持って俺と相対していた。
シッ、と鋭い呼吸音を出して、真夜は素早く踏み込みながら右手で武器を振り下ろした。
俺はそれを魔力を纏わせた木のメイスで受け流す。
……重い。
女の力とは思えない一撃。彼女はもう自分で強化魔法を使えるようになっている。
攻撃の勢いのまま真夜の体が回転する。黒い爪が走った。
<盾>
俺は襲いかかってきた真夜の左手、黒い爪を空中に浮かぶ魔力の盾で防いだ。
ガリガリと盾が抉れるような嫌な音が響く。
魔力操作が可能になると、精霊の適正に応じて色々な魔法が使えるようになる。
真夜の精霊は黒猫のためか、爪を伸ばして攻撃するのが得意なようだ。
そして闇は魔力を奪う。
闇が侵食し、盾が壊された。しかし一瞬でも時間が稼げればそれで良い。
俺は足裏に風の魔力を込めて、前蹴りで真夜を突き飛ばした。
吹き荒れる突風によって真夜はダメージ以上に吹き飛んでいく。
真夜は空中で体を丸めるとクルクルと回転して猫のように着地した。大分身体能力も上がったな。
真夜は大きく息を吸った。
「ニャァアアア!」
声に乗せて、黒い波動が飛んでくる。遠距離攻撃、恐怖の魔法だ。
まともに喰らえば体が竦むだろうが、俺は光の魔力を軽く放出するだけで抵抗した。
真夜はこちらを警戒しているのかじっと立って近づいてこない……いや、影がないな。
真夜の体が消えた。そこか。俺は振り返り、背後の影から出現しようとしている真夜の頭を軽くメイスで叩いた。
「ニャンで分かったの!?」
「もうちょっと牽制して注意をそらさないとバレるよ」
これは最近覚えた影渡りの魔法だ。術者の影を移動させ、影がある場所に瞬間移動する。
ただし転移後は影から抜け出すまで若干隙ができる。
真夜は不貞腐れたように大の字に倒れた。
「あーあ、いつになったら一本取れるんだろう」
「まぁ真夜がLV2だとしたら俺はLV100だからな。まだまだ経験値が足りないさ」
実際精霊の格からして違う。魔物を倒すと魔力の一部が精霊に吸収され格が上がっていくのだ。
俺も最初は少し風を操れる程度だったが、どんどんできることが増えていった。
「だったら師匠が魔王を倒せば良いんじゃないの?」
そうだな、俺もそう思う。しかし大丈夫。既に設定は練ってある。
「俺は一度魔王を倒したが、魔王はまた復活した。そして俺は魔王を倒したときに呪いをかけられた」
俺はサングラスとフードを取って、傷が縦に走り真っ赤になっている左眼と、半分白髪になっている頭を見せた。
「俺の中には魔王の魔力が侵食している。魔王がこの魔力を操れば俺は一瞬で敗れるだろう」
まぁ実際はこの目の傷は魔王の側近だった暗黒騎士が呪いの戦斧を使ってつけたものだし、魔王の呪いは髪が白髪になっただけなんだけどな。
「今世界を救えるのは真夜だけだ。もちろん他にヒーロー候補が見つかれば話は別だけどね」
「なるほど。じゃあやっぱり私が頑張らないといけないのか。そうだね、きっとこれは修行編。頑張れ私……ウゴゴゴ」
真夜は握り拳を作って立ち上がった。
しばらく真夜と接して分かったが、こういう中二病的なことを言えば彼女はやる気がでる。
そう思っていると、フェイが念話で話してきた。
(しかし最近なんだかモチベーションが落ちているのも確かですね)
やっぱり?魔物と戦ってないし、競争相手が格上の俺しかいないしな。
修行ばかりでは流石に飽きるだろう。俺だって飽きる。
(この辺でまた魔物を出すか、あるいは新たなヒーロー候補を仲間にするか、あるいは両方やってみるのはどうですか?)
魔物はまだ良いが、新たなヒーロー候補?
事態がさらに面倒になる未来しか見えないぞ。
真夜一人でも毎週訓練してゲーム時間が削れて面倒なのに、さらに増えるのはきついだろ。
(しかし目標は思い詰めていたマヨちゃんを精神的に自立させることですよね?今彼女は家でも学校でも孤立してますよ。このままでは社会性がなくなります。同じ共通点を持つ仲間がいればもっと社交的になれるでしょう)
妖精が言うには真夜はいじめの主犯である鳥っ子を撃退したことで学校での嫌がらせはなくなったが、逆に怖がられて友達はできていないらしい。
さらに自宅でも魔法の練習をしたり小説を読んだりするだけで、家族との会話は殆どないそうだ。
うーむ、確かにそれは問題だ。俺も似たようなものだが精神が成熟していない中学生にはきついだろう。
(それに世の中には彼女以外にも困っている人がたくさんいるのです。困っている人を助けてヒーロー候補にし、マヨちゃんの自立も促す。一石二鳥ですよ)
そうなのか?なんだかやっていることが詐欺っぽいが、誰も傷つかないなら良いのか?
「ですです」と適当な返事をする妖精を胡散臭く思いながらも、俺は前よりも活き活きとしている真夜の顔を見た。
結局俺はこの提案に乗るだろう。
俺の引きこもり生活を防ぎたいフェイにまんまと誘導されている気がしつつも、俺は心の何処かでこの状況を楽しんでいるのかもしれない。
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