第3話 精霊の目覚め
私は魔法や精霊のことで頭が一杯で、気づいたら翌日の朝、学校に行く時間になっていた。
「ファイア!」
指先に集中して呪文を唱えた。しかし何も起きない。
私は昨日の出来事に興奮してあまり寝付けず、早朝から魔法の練習をしていた。でも駄目なようだ。
う~ん、何が悪いんだろ。精霊が魔法を教えてくれるって言っていたけど、全然教えてくれないし。
腕を組んでうんうん唸っていると、バタンと乱暴にドアが開かれた。
真昼が学校のプリントを持って怒った顔で立っている。
「ちょっと!宿題やっておいてって言ったじゃん!」
どうやら昨日、私にやれと言っていた宿題のことを言っているらしい。
あんな喧嘩をした後でやると思っていたのだろうか。
私は真昼に背を向けて、魔法の練習をすることにした。やっぱり呪文が悪いのかな?
「なに無視しているの?なんとか言いなさいよ!」
うるさい。私は魔法の練習で忙しいんだ。
モゴモゴと口の中で呪文を唱えていると、頭に何かがぶつかった。
痛い。床には魔法少女ポムポムの人形が転がる。真昼が投げてきたらしい。
こいつ……思わず怒りが湧き上がる。
(鬱陶しいなぁ。やっちまうにゃー)
え?突然子供の声が聞こえて、私は周囲を見渡した。
しかし部屋の中には私と真昼以外誰もいない。
「ねえ、聞いてんの!?」
私が反応しないことに痺れを切らしたのか、真昼が肩を突き飛ばしてきた。
あーもう!魔法は成功しないし、謎の声がするし、真昼はうるさいし!寝不足だし!鬱陶しいにゃ!
黒い感情が心の中を満たし爆発する。私は叫んだ。
「うるさい!黙れ!」
黒い感情を魔力にのせて真昼に飛ばす。
ドロドロした暗い波動が真昼を貫いた。
これが恐怖の魔法だ。相手を恐慌状態にして追い払う魔法。
これで静かになるだろう……え?なんで私こんなこと知ってるの?
「ひぃぃぃ!」
真昼は悲鳴を上げて尻もちをつくと、這々の体で逃げ出した。
私は口を開けてその光景を呆然と見ていた。
ふと気づくと、私の体から黒いモヤモヤが湧いている。それはオーラのように体に纏わりついていた。
え、なにこれ?私はパニックになってそれをはたき落とそうとするが、手が通り抜ける。
どうしよう?と思っていると、モヤモヤはやがて勝手に消えていった。
はぁ……良かった。
これが魔法だろうか?すごい!私はやっぱり魔法を使えるんだ。昨日出会ったあの男の人、ユウキと連絡を取らないと。
でもどうやって?そう言えば電話番号すら聞いていない。向こうから会いに来るのだろうか?
考えていると、階下から私を呼ぶ声が聞こえた。叔母の声だ。
階段を降りて居間に行くと、そこにはソファーの上で胎児のように丸まった真昼と、心配そうに彼女の頭を撫でる叔母さんがいた。
「真夜、あなた一体何をしたの!?真昼がこんなに怯えちゃって……」
「別に、ちょっと怒鳴っただけだよ」
それから良くわからない魔法も使ったけど。言っても信じないだろう。
今更ながら、やりすぎたかもしれないと罪悪感が湧いてきた。
「しばらくすれば治るよ……たぶん」
「ええ?本当に何をしたの!?」
私は学校があるからと断って、逃げるように外に出た。
給食後の5限目、一番眠い時間帯に黒板とチョークがカツカツぶつかる音が聞こえる。
社会の授業中だ。この先生は教科書をボソボソ読んで黒板に文字を書くだけなのでつまらない。
私は授業中もずっと魔法のことを考えていた。
あの時、魔法が使えたのはなぜだろう?感情が高ぶったから?あの不思議な声はなに?
後頭部に何かが当たった。
後ろを振り向くと、いじめっ子の美道がニヤニヤしながら紙を丸めていた。
どうやら紙くずを投げてきたようだ。
私は鬱陶しく思いながらも無視することにした。
クスクス笑い声が聞こえて、先生が一瞬こっちを見たが、気にせずにまた教科書を読みながら板書し始めた。
何度か紙くずが飛んできた後、さらに硬い何かが飛んできた。痛い。
後ろを振り向くと、美道が消しゴムをカッターで切っていた。
どうやら消しゴムを切って投げてきたらしい。
いい加減鬱陶しくなった。魔法を覚えたら絶対復讐してやる。
ノートに美道への復讐方法を書いていると、後ろで弾けるような音がして、さらにガシャンと何かが倒れる音が聞こえた。
何が起きたのか見ると、美道が後ろでんぐり返しの途中みたいな格好で倒れていた。どうやら椅子が後ろに倒れたようだ。
一瞬の沈黙の後、クラスのみんなが爆笑した。
「美道、パンツ丸見えだぞ!」
クラスの男子が囃し立てている。
美道は顔を真っ赤にして座り直した。
椅子を後ろに傾けて倒れたのだろうか?何にせよいい気味だ。
そう思っていると頭の上からニャーと猫の鳴き声が聞こえた。え?猫?
上を向こうとすると、目の前に黒い何かが落ちてきて左右に揺れた。これは猫の尻尾?
驚いて頭の上を手で触るが何もない。目の前の尻尾を掴もうとしても手が空を切った。
私があたふたしていると先生が注意してきた。
「美道さん。授業は真面目に受けるように」
「……すいません」
またクラスのみんなが笑った。
でも誰も私の頭の上の猫には注目していないようだ。なんで?
周囲を見渡すが、みんな美道への興味を失って前を向いている。猫を見ている人はいない。
この猫は私にしか見えていないのだろうか?これが精霊?
黒い尻尾がバイバイするように目の前で振られると、空気に溶けて跡形もなく消えた。やっぱり精霊なの!
待てよ、ということは?私は恐る恐る美道の方を振り向いた。
彼女はおでこを抑えながら凄い形相でこちらを睨んでいた。
……もしかして、私何かした?
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