辞書の正しい使い方(エロ回)

 辞書というのは、基本的に読むものである。

 もちろん、頭から順繰りに読むものではないが、ひいた項目は読まなくてはならない。

 ただ、どうにも、ここらへんのことを理解できていない人はそれなりにいるようで、私はその手の人をしばしば見かけた。

 辞書をひくのを小学校や中学校で宿題にするからいけないのだというのが、私の持論である。

 辞書をひき、その証拠にノートに書き写すとなれば、無心で辞書の意味の最初の部分だけを書き写しておしまいにする。

 きわめて当然の反応だ。だって、つまらないんだもの。心を無にして作業をするしかないではないか。私はこのような宿題を小学生の頃から蛇蝎のごとく嫌っていた。ついでに読書感想文も蛇蝎のごとく嫌ってきた。


 そんな私に辞書を読むということを教えてくれたのは、同じ塾で机を並べ、切磋琢磨する蹴落とし合う仲間だった。

 私はトップではなかったものの、結構上位のクラスにいた。

 上の方のクラスは男女別で、教室にいるのは男ばかりである。

 学力だけで見れば相当な上位層なのだが、当然のように皆バカである。

 大学受験の(現代)国語の問題だってかなり解けるくらいの学力を持ったマセガキどもで、頭の中には歴史の年号の語呂合わせとエロい妄想がくんずほぐれつしているのである。

 このエロガキどもが勉強合宿などに連れて行かれると、どうなるか。

 休み時間はあっても、遊び道具はない。勉強に来たのだから、勉強道具以外は持ってきてはいけないのだ。私たちは放課後に五、六時間勉強するのが当たり前くらいには訓練されていたし、合宿で勉強時間が倍になってもさほど苦にならないくらいなお勉強マシーンであったが、それでも息抜き一つできないと息が詰まる。

 あるのは辞書だけで、これで少しでもエロそうな言葉をひいてはキャッキャウフフするというバカな遊びをはじめたのである。

 キャッキャウフフするためには、ちゃんと項目の中身を読まないといけない。

 私たちは辞書を奪い合うようにし、鼻の穴をひろげ、胸を熱くしながら、エロいと小学生男子が感じる言葉の数々を噛みしめるように読み、その熱くイヤラシイ思いを共有した。こうして、私は辞書を読むという行為を体得することになる。

 Oくん、君のようなエロガキがいなかったら、私は辞書をしっかり使えないまま大人になっていたかもしれないよ。

 ありがとう。


 バカとハサミは使いようとは良く言ったものである。

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