Sa trompette sonore
注と称してリンクを貼るのが面倒くさくなるくらいに黒石一族は下ネタが好きである。
私だけではないのである。
う◯この話と屁の話ばかりしているし、美術館に行けば裸体彫刻のち◯ち◯を一本、二本、三本……と番町皿屋敷のお菊も呆れて皿を投げ出すくらいの勢いで数えだす。
当然、家の中では皆、平気で放屁をするわけだ。
例外は父であり、どういうわけか、家の中でも放屁をしないように我慢している。
カジン家は逆であり、カジン父の放屁をまわりが諌めるのだという。
で、そのような家で育った二人が一緒に住むとどうなるか。
私はひたすら屁をこき、カジンはそれに眉をしかめるということになるのである。
「出物腫れ物所構わず」
これが私の口癖であり、この口癖を私は引っ叩かれながら言っているわけだ。
そんなある日のことだ。
私がベランダで涼んでいると、部屋の中から法螺貝のような長い重低音が鳴り響いた。
山伏か野伏が襲撃でもしてきたんじゃないかと慌てた私は、慌てて中に入り、木刀をつかむ。
「何? 今の音、何? 法螺貝?」
慌てふためく私にカジンは恥ずかしそうに「おならの音」と答えた。
恥ずかしがらせて悪いなと当然思った。
恥ずかしがるようなことでもないと当然思った。
むしろ誇らしいことだと当然思った。
「すごいよ! 山伏がいるのかと思ったよ」
私はカジンを褒め称える。本心である。息の長い素晴らしい重低音だったのだ。
「どうやったら、あんなに長く伸ばせるの?」
私はカジンに教えを乞う。本心である。私もあそこまで長く低く立派な音を鳴り響かせたいのだ。
カジンはコツを教えてくれる代わりに、私を殴った。
技術は口で教えられるものではない。盗めということなのだろう。
その証拠に、その後は私に手本を頻繁に示してくれるようになった。
響き渡る法螺貝! 私はそのたびにカジンを褒め称え、愛の言葉をささやき続け、殴られ続けた。芸の道は厳しい。
私は今日も放屁する。
海神に愛されしトランペッター(注)に追いつくために。
注:おフランス語で、法螺貝のことをネプチューンのトランペットということがあるのだそうです。
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