中華鍋

 中華鍋が好きだ。

 好きになったのは一人暮らしを始めてからである。

 一人暮らしをはじめるにあたって、最初はフライパンを買って、それで料理をしていた。

 最近のフライパンはテフロンを始めとしたフッ素樹脂加工されているものがほとんどだ。

 これは焦げ付かなくて良い反面、定期的にとりかえなくてはならない。

 嘘か真か知らないが、剥がれてしまうと身体に良くないなんて話もあった。

 その話を真とするならば、加工が剥がれても加工なしのフライパンになっただけと割り切れなくなってしまう。


 私は近所のスーパーにならぶ中華鍋をながめた。

 自分へのご褒美として行く中華料理屋では、店員は当然中華鍋で料理をしていた。

 がこがこと音をたてて鍋をふるい、一つの料理を作り終えたら、ささらで綺麗にして別の料理にとりかかる。

 その姿にあこがれの眼差しをむけていた。


 だから、一つめのフライパンを駄目にしたとき、私は中華鍋を買うことにした。

 柄のついていない広東鍋といわれるものは近所のスーパーにはなかった。それで私は持ち手付き、すなわち北京鍋と言われるタイプを買うことにした。

 まぁ、広東鍋があっても使いこなせる気もしなかったので、それで良かったのだろう。

 そこで炒められるのは、モヤシであったり、具なしチャーハンであったりと貧乏極まりなかったが、中華鍋で炒めるとそれだけで美味しく感じられたものだ。


 時は過ぎても大きな北京鍋はがっこんがっこんと振られ続けている(注)。

 こんなに大きな鍋は使いづらい。

 カジンはそう言って、一回り小さい北京鍋を買ってきた。

 カジンの買ってきた北京鍋はたしかに使いやすかった。

 少しだけ大きな北京鍋の出番は減った。

 それでも炒めるものの量や質によっては、まだまだ相棒は現役である。


注:あくまでイメージである。業務用の火力があるわけでもないので、実際には五徳にのせた中華鍋のなかをヘラやお玉でかきまぜているだけである。

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