剛の者たち
普段楽しんでいるスポーツは、生涯スポーツで様々な年齢層の方が集まっている。
大人からはじめられる方もそれなりにいらっしゃるが、大抵は子どもの頃からずっとやっているような人たちである。
で、この人たちは見た目は普通のおいちゃんとおばちゃんだったりするが、話を聞いてみると(あるいは話を聞かなくとも打ち込まれると)わかるのだが、剛の者が多い。
スポーツ枠で進学しているとか、インターハイ、インカレに出ているとか、元国体強化選手とかがごろごろしているのだ。
私みたいな戦績ゼロにもかかわらず、なぜか続けている者は実は多くない。
で、この人たちは大学の体育会出身であることがしばしばなのだが、まぁ、大学の体育会というのは酒癖に関してあまり良い噂を聞いたことがない。
高校の同期がけっこう体育会方面にいって、そいつらの飲み会に参加したことが何度かあったが、まぁ、恐ろしい代物である。
一気飲みのコールとやばげな余興がエンドレスである。
一気飲みのコツは飲むのではなく、食道の奥に流し込むイメージでとか、いらねぇよ、そんなライフハック。
掛かり稽古(注)で酒が抜けるとかいうライフハックもいらねぇ。
とはいえ、年をとるとそれなりに丸くなる。
かつては恐ろしい体育会系の猛者であったこの手のおいちゃんたちも練習のときはけっこう優しい。
「黒石、無理するな」
「しんどかったら休め」
私が肩で息をしていると、常に心配してくださる。
それなのに、酒に関してだけは容赦ない。
「無理するな」とも「休め」とも言ってくれないのだ。
それでも一気飲みのコールが鳴り響かないだけ、丸くなったのかもしれない。
おいちゃんたちの注ぎたい欲を満たすためのビール瓶が机の上に並び、地獄の饗宴がはじまるのである。
「昔に比べると、ずいぶん大人しくなったんだよ」
そう年配のおいちゃんたちはのたもうのを私はくらくらする頭で聞く。
トイレに行ったら、同世代のおいちゃんが便器にすがっていた。すがりつく彼はほどなくして、貫一お宮の像のお宮のごとき態勢になった。なお、この先の阿鼻叫喚は省略する。
合宿所では下っ端の部屋は宴会部屋となるので、布団の確保が難しい。
夜明け前に廊下で目を覚ますなんてこともあった。
それでも大人しくなったというのは本当らしい。
手にはビール缶、股ぐらには一升瓶で日の出を眺めながら語らうとかして、翌朝、稽古していたとか聞くとついていけねぇと思うのである。
お酒はほどほどにね。
注:ひたすら攻めて間断なく打ち込み続ける稽古である。一〇秒から一五秒ごとに鳴る太鼓の音にあわせて、相手を替えてひたすらかかり続ける。若者は合計五分から七分以上やるが、おいちゃんたちは一分もたない。
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