進化する次郎丸(仮名)

 我が家の愛犬、太郎丸(仮名)と次郎丸(仮名)は「ワンプロ」――要するにワンコのプロレスである――とよばれる競技をたしなんでいる。

 太郎丸(仮名)はドッグランデビューでジャックラッセルテリアのおにいちゃんにがっつりとしこまれ、これをおぼえた。

 犬の中でも子犬パピーはかなり特別扱いをしてもらえる。

 おにいちゃんやおねえちゃんたちは、少し暴れさせてから、遊び方を教える。

 好き放題に走り回り、先輩たちに散々体当たりを繰り返した太郎丸(仮名)はしばらくしてからジャックラッセルテリアのおにいちゃんにつかまったわけである。

 小さいとはいえ、テリア種らしい力強さを持つ彼は太郎丸(仮名)を投げとばして、がっつりと押え込んだ。

 それがよほど楽しかったのか、彼は投げ技と押さえ技に魅せられ、グラップラーとして日々楽しんでいる。

 さすがにおいちゃんになって、若かりし頃のように止まったら死ぬのかお前? 的な感じで取っ組み合いを続けることこそなくなったが、それでも後進の育成と楽しみを兼ねて後輩を投げ飛ばしていることも多い。


 さて、太郎丸(仮名)の一番の弟子は、別名おにいちゃんのサンドバッグこと次郎丸(仮名)である。

 師匠に投げられ、押さえ込まれ続けた彼はそのままでは師匠にずっと勝てないと考えたのであろう。別の戦闘スタイルに活路を見出した。

 すなわちストライカースタイルである。

 威力抜群ながらも大振りな尻パンチ、スピードこそあれど威力に欠けるしっぽビンタの二つしか打撃系の技をもたない太郎丸(仮名)に対して、次郎丸(仮名)はダッシュワンツーパンチや、ダッシュ胴回し蹴り、頭突きといった様々な打撃技で対抗するようになった。

 ちなみに彼は孤高に技を追求するタイプであり、弟子などは取っていない。


 さて、こいつらは楽しくなってくると飼い主に対してもワンプロを仕掛けてくることがある。

 とはいえ、こいつらと私とでは階級があからさまに違うので、私は格の違いを見せつけてやっている。

 太郎丸(仮名)はかなり力強いがそれでも私のほうが体格ではるかに勝っている。

 「おらおらぁ。群れのリーダーはワシや!」

 人の足にしがみついてマウンティングをしようとしていた太郎丸(仮名)をひっくり返し、マウンティング返しをする。


 こんな光景を見ていたからであろうか。

 次郎丸(仮名)は対人戦を研究しはじめたらしい。

 そして、彼の研究は着実に戦果をあげた。

 飛び上がりながらのワンツーパンチ、最初はもろに股間に食らって悶絶した。

 「男の子なんだから、それ、反則だってわかろうよ」

 私は次郎丸(仮名)に言い聞かせる。

 わかってくれたのか、最近はそれはやらなくなった。


 その代わり、この前、寝ているとき、肩を極められた。

 絶妙な場所に尻を置かれ動かせなくなった腕の上で次郎丸(仮名)が動くたびに肩が悲鳴をあげる。

 ただの打撃系だと思っていたら……次郎丸(仮名)、恐ろしい子。

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