第53話

ラジヴィー公爵が呼んだ厳しくてスパルタな講師たちとは違い、新しい講師はキャンディスに対してとても優しく接してくれた。


以前は母親に会うためにホワイト宮殿にこもって毎日毎日勉強漬けだったが今はキャンディスのペースに合わせてくれるし無理難題を押しつけられることもない。


(やっぱりお祖父様の呼んでくれていた人たちって厳しすぎたのよ!)


こうして新しく外部の人間と触れ合えるのはいい刺激になる。

ただキャンディスはこのモネという講師に違和感も感じていた。


(わたくしが五歳だとしても、教える内容がなんだか簡単過ぎないかしら。それに知識に偏りがあるような気がするのだけれど)


以前のキャンディスが知っていることすら知らないし、帝国貴族たちの事情にも疎い。

それに加えて、部屋を見回していたり宮殿のことをさりげなく問いかけてきたり、護衛が何人いるかチェックしてくることも不思議に思っていた。


キャンディスが聞いても、子供だと思っているのか適当にはぐらされているような気がしてならなかった。

キャンディスが講師を紹介してくれたという新人の侍女を呼び出して直接、問いかけることにした。



「ねぇ……あなたがモネ講師を紹介してくれたのよね?」


「はい、そうですわ。皇女様が楽しく学んでくれているので嬉しいと言っていましたわ」


「どこの家の方なのかしら」


「え……?」



一瞬、表情が曇ったのをキャンディスは見逃さなかった。

しかしすぐに侍女の表情は元に戻る。

何かがおかしい……そう思ったキャンディスは詳しく追求することにした。



「モ、モネ講師が来てから詳しいことをお話いたします……!紅茶でも飲んでお待ちくださいませ」


「……わかったわ」



キャンディスが新人侍女が淹れた紅茶を飲んでモネ講師が来るのを待っていた。


(さっきの間、やっぱり気になるわ。なにかあるのかしら)


キャンディスがソーサーにカップを置いて問いかけた時だった。



「ねぇ、やっぱり……っ!?」



言葉の途中で突然、体から力が抜けたことに驚いていた。

キャンディスの手からスルリとカップとソーサーが落ちて、ガチャリと音を立てて割れてしまう。

キャンディスの体から力が抜けていき、そのままソファにもたれかかるようにして倒れ込んだ。

新人侍女の唇がにっこりと弧を描いた。



「勘のいいガキね。噂とは性格が違ったけど、馬鹿な皇女で助かったわ……入ってきな」



新人侍女の雰囲気がガラリと変わる。

そして講師として優しく接してくれるモネがいつもとは少し違う動きやすい格好で現れた。

キャンディスは自分の嫌な予感が外れないことに気づいて焦っていた。


エヴァとローズは休憩中で、ホワイト宮殿の警備は今は手薄だった。

何故ならば、記憶が戻る前にキャンディスが気に入らない護衛を次々とクビにしまくっていたから。

五歳にして顔の好みで残るかどうかを決めていたことを今になって思い出す。



「でもまぁ、皇女が宮殿内で嫌われているって噂は本当だったんだのね。警備も手薄で侍女もこんなにいないなんて……可哀想にねぇ」


「ほんとほんと。人手不足だからって簡単に雇い入れてくれて助かったよ」


「……っ!」



どうやら記憶が戻る前のキャンディスが大量の侍女や護衛をクビにしていた影響がこんなところに出てしまっていたようだ。

そしてラジヴィー公爵の息のかかっていない講師という条件で勝手にホワイト宮殿に招き入れてしまったことでこんなことになってしまったことを後悔していた。



「皇女を攫って、たんまり金をいただくよ!」



その言葉にキャンディスは大きく見開いた。

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