第27話
商人がでっぷりとしたお腹の上で手を揉みながら、いつものようにキャンディスの元にやってきた。
死刑を回避するように行動を真逆にしていたキャンディスが買うものをいつもの半分にしようと思って商品を選んでいた時だった。
エヴァとローズは慌てながらキャンディスを止めたのだ。
「こんなに買ってどうするんですか?」
「もうクローゼットに入りきらないくらいありますよ!」
と言われたため、それでも買う量が多かったのだと気づく。
いつもなら文句を言えば辞めさせのだが、今回の人生ではそれはしていけないと決めていた。
「本当に必要なものだけですよ!」
と、エヴァに言われたキャンディスは自分のものではなくアルチュールの服を選んだ。
その時の商人は驚きすぎて腰を抜かしていた。
最近はそんなことばかりで、この反応にも飽きてしまったキャンディスは気にすることなく次もアルチュールの服があったら見せて欲しいと頼んだ。
商人はキャンディスが自分のものを買わないことに大きな違和感を感じたようだ。
商人はガクガクと震えつつ何度もこちらを振り返りながら去っていく。
エヴァとローズは最初はあんなにもキャンディスに怯えていたのに今は甲斐甲斐しく世話を焼いてくるし、キャンディスのやることにすぐ文句を言ってきて頭にくる。
だけどキャンディスが頑張って好き嫌いなく食事をするとたくさん褒めてくれるし、いつもキャンディスを可愛いと言ってくれる。
何よりそばにいて心配してくれたり、わがままを叱ってくれたり、たくさんのことを教えてくれる二人のことが嫌いではなかった。
エヴァとローズは没落した子爵家の出身らしく、四十歳も年上の引退した帝国貴族に嫁がされそうになったようだ。
縋るような思いでホワイト宮殿の侍女に立候補したらしい。
その話を聞いて二人をクビにしなくてよかったと思ったし、自分の行いを反省するきっかけになった。
買い物量は十分の一ほどに減り、わがままも必要ない贅沢もやめた。
これ以上、買い続けていてもエヴァとローズの言う通り〝いい皇女〟にはなれない。
何より牢の中で極限まで追い詰められたことにより物に対する執着は一切なくなっていた。
その次の日、商人はアルチュールが着れそうな服を何着か持ってきてくれた。
キャンディスはアルチュールに似合いそうなものを購入してジャンヌに渡したのだ。
「こんな素晴らしい服をありがとうございます。キャンディスお嬢様」
「た、たまたまアルチュールに似合いそうな洋服見つけただけよ!別に商人に頼んだわけじゃないんだからっ」
エヴァとローズはキャンディスの言葉を聞いてニヤニヤしている。
本当は商人に頼んでアルチュールの服を持ってきてくれたのを知っているからだ。
以前向けられていたジャンヌの厳しい視線は一転してキャンディスを見る表情はとても優しい。
アルチュールはキャンディスが来てから、そばを離れずにくっついている。
「アルチュール、昨日教えたでしょう?レディをエスコートできるようないい男にならないとだめよ!」
「はい、キャンディスお姉様」
アルチュールはエスコートをするために手を伸ばす。
今はキャンディスの方が体が大きいため、ちぐはぐではあるがアルチュールはキャンディスに教わった通りに動いていた。
二人が腰掛けるとお茶とお菓子が運ばれてくる。
下からサンドイッチもスコーンもケーキと並べられている。
キャンディスは美味しそうなサンドイッチを手に取った。
アルチュールは飲み込みが早く、キャンディスから教わったことをすぐに覚えてマナーを会得してしまった。
アルチュールの成長を噛み締めながら紅茶を飲み込むキャンディスはホッと息を吐き出しながらお菓子のおいしさに頬を押さえた。
「このスコーンとクッキー、最高だわ!」
「シェフにそう伝えておきますね」
「ありがとう、ローズ。エヴァ、アルチュールに紅茶のおかわりをちょうだい」
「かしこまりました!」
「キャンディスお姉様、ぼくもお姉様と同じものが食べたいです」
「わかったわ。ジャンヌ、お願い」
「はい、ただいま」
五人の楽しげに話す声と中庭に響いていた。
そんな二人を宮殿の上から見下ろしていた一人の男がいた。
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