第13話
キャンディスに渡されたのは母が大切にして毎日つけていた金色のペンダントだけ。
『なんでも願いが叶う石』が嵌め込まれていて、母が病弱でもキャンディスを産んでも生きながられたのはこのペンダントがあったからだと祖父に教えてもらったことがある。
(お祖父様のことを信じていたのに……!このわたくしに嘘をつくなんてっ)
そう思うと信頼していた祖父に対して激しい怒りが湧いてくる。
結局、キャンディスが母親に会えることなかった。
騙されてうまく利用されていたということが今ならばわかるのだ。
ラジヴィー公爵のやり方は腹が立って仕方ないが、まずは彼にキャンディスが跡を継ぐことを諦めさせなければならない。
(わたくしがお母様に会いたいという気持ちを利用するなんて最低だわ!)
これには徹底的に対抗しなければならないとキャンディスは決意する。
(もうお祖父様は信用しないんだから……!)
そしてキャンディスの婚約者だった男でルイーズの味方となった隣国ダルトネスト王国の第二王子、ジョルジュ・ディ・ダルトネストについても関わらないように注意が必要だ。
キャンディスを軽蔑するように見下す視線を思い出しただけで鳥肌が立つ。
一瞬でも彼の愛が欲しいと思ってしまった現実を消し去りたい。
ジョルジュが将来、ルイーズと結ばれるのならそれでもいいだろう。
(今後、ジョルジュにも絶対に関わりたくないもの。あの男とだけは絶対に婚約しないんだから!)
幸い、キャンディスはまだ五歳だ。
兄弟たちを皆殺しにして宮殿内の人々も気に入らないと殺し回ったキャンディスだったが、運命の日まではまだたっぷりと時間はある。
それまで今までと真逆な行動をとって大人しくしておけば今までと同じ生活が約束される。
ある程度の年齢になったら、どこかの王子と結婚して帝国から抜け出せばいい。
もう何かに執着をして身を滅ぼして利用される人生はたくさんだ。
(わたくしは誰にも執着しない。同じ過ちは繰り返したくないわ)
不安は残るが第二皇女でアルチュールの双子の妹、ルイーズが宮殿に来るのはまだ先だからと言い聞かせていた。
(勝負はあと十一年後……それまでわたくしは慎ましく生きるの。やり方はわからないけれど、わたくしにできないことなんてないはずよっ!)
キャンディスがいつもの調子を取り戻しつつあった。
随分と状況を把握できたし、頭の中も整理することができた。
キャンディスがホッと息を吐き出しながら冷めた紅茶を啜っていると先ほどの侍女たちが部屋の扉をノックして様子を窺いながら顔を出す。
「キャンディス、皇女様……お食事の用意が整いました」
「あら、ありがとう。ところであなたたち……」
「「ひっ……!?」」
キャンディスが話しかけるだけでこの反応である。
今までのキャンディスの振る舞いを見ていれば当然だろう。
キャンディスが自らの行いを思い出して、ため息を吐くと侍女達の肩が大きく揺れる。
今日からはわがままな皇女のイメージを払拭していかなければならない。
(彼女たちに歩み寄るのよ!わたくしが下々の奴らに話しかけるの……落ち着きなさい、キャンディス。牢に入り、石を投げられて空腹に耐えて死ぬことに比べたらどうってことないはずよ)
死ぬ前の牢での生活と死ぬ時の絶望や後悔に比べたら、このくらいどうってことはないはずだ。
キャンディスは唇を引き攣らせながら問いかけるために口を開く。
「今すぐ、あなたたたちの名前を教えなさい」
「あっ、お許しを……!」
「申し訳ございません! 皇女さまっ」
「っ、このわたくしが……っ」
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