第7話
アルチュールとルイーズは顔が似ていないが、明るく無垢なところがそっくりな気がした。
気が荒だっていたキャンディスにとってルイーズは邪魔者でしかなかった。
今まで皇女として自信を持っていたキャンディスはルイーズの存在が気に障った。
更に気に入らないのは最愛の父をはじめて周囲の者たちを掌握していったことだ。
キャンディスの母は十二才の時に病死してしまった。
生まれてからキャンディスはずっとホワイト宮殿で暮らしており、母とは離れていたためキャンディスは他の兄弟たちと違って両親の愛情に触れたことはなく愛情に飢えていた。
母が死んでからは父に執着して、彼に認められることを心の拠り所にしていた。
そこでキャンディスの立場を揺るがすような衝撃的なことが起こる。
同じ宮殿で暮らしていたキャンディスたちは共に食事すらしたことがないのに、ルイーズは当然のように父の隣にいることを許されていたのだ。
キャンディスのプライドは深く傷ついて、次第にルイーズを敵視して排除したいと強く思うようになっていった。
そしてキャンディスはあらゆる手を尽くしてルイーズを宮殿から追い出そうとするもののすべてが失敗に終わる。
いつの間にか兄のマクソンスもリュカもルイーズを守るように動いているではないか。
そしてついにキャンディスがルイーズに手をかけるという時に、ルイーズを庇ったアルチュールを殺してしまう。
キャンディスにとって無害なアルチュールは虫と同じ。何の価値もない存在だった。
それと同時に父のこの言葉を思い出した。
『一番、強い者に跡を継がせる』と。
キャンディスの真っ赤な唇は大きな弧を描いた。
兄たちを消せば今度こそ自分を見てくれるはずだと辻褄を合わせるように納得していた。
そうすればルイーズから離れて、後継であるキャンディスだけを見てくれるのではないか、そう思い込むようになる。
その間にも皆に優しいルイーズと比べられてキャンディスの居場所は徐々になくなっていく。
誰もキャンディスを見てくれない……追い詰められたキャンディスは凶行に走ったのだ。
しかし今ならばわかる。そんなことをしても幸せにはなれない、なれるはずがないのだ。
(……わたくし、なんてことをしてしまったのかしら)
キャンディスは真っ白な天井を見つめていた。
ズキズキと後頭部が痛んでいたが、キャンディスはルイーズが耳元で口にした言葉を思い出していた。
(わたくしはきっとルイーズに嵌められたのね)
冷静になった今ではそう考えることができる。
ルイーズはキャンディスを使い、他の兄弟たちを排除させてから、すべてを手に入れた。
(わたくしはお父様に首を斬られたはずなのに何故……)
キャンディスは無意識に首を押さえていた。
そしてベッドから起き上がり痛む頭を押さえながら体をチェックしていた。
(やっぱり……わたくし、子どもの姿になっているわ)
混乱していたせいか暫くは動けなかった。
頭の中はなんで?どうして?という疑問で溢れている。
とても受け入れられない現実。悪夢の中にいるような感覚にキャンディスは目を閉じた。
先ほど鏡で見た姿は五、六歳くらいだっただろうか。
そして成長した記憶を持ったままだ。
悪の皇女と呼ばれて、最後は牢に入れらてしまい愛して欲しいと思っていた父の手で殺された。
キャンディスは呆然としたままだった。
(どういうことよ……あのまま死なせてくれたらよかったのに)
誰にも愛されることもなく、利用されたキャンディスの心は空虚なままだった。
まるで暗い牢の中にいるようだ。
罵倒や嘲笑がキャンディスの耳の中にまだ残っている。
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