第4話

ルイーズの美しく煌びやかな姿はまるで以前の自分を彷彿とさせる。

キャンディスは目を見開いて愕然としながらルイーズを見ていた。

騎士たちは処刑台の板に首を挟むために無理矢理立たされたキャンディスの前に立つルイーズを見て「危ないです」「下がってください」と声を掛けている。

しかし彼女はニッコリと笑って「最後に二人で話させて」と言った。

ルイーズはキャンディスの前に屈むと耳元で囁く。



「あぁ……惨めね。臭くて汚くて最悪じゃない」



鼻で笑うように言われた言葉に全身の血が沸き立つように怒りが頭を支配する。

ルイーズがあえてキャンディスを煽るためにこの格好をして、こうして馬鹿にするためにここに立っているのだとそう思った。



「邪魔者を排除してくれてありがとう。これで全部、わたしのものよ」


「…………」



キャンディスはペラペラと話すルイーズを見ていた。

ただ一つだけわかるのは、自分は利用されたのだとそう思った瞬間に体が動いていた。



「──キャアアアアアアッ!」



広場にはルイーズの悲鳴が響いた。

騎士がルイーズとキャンディスの間に慌てて入る。

キャンディスは先ほどルイーズの耳に思いきり噛みついたのだ。

口内にある肉片をプッと吐き出す。

カサついた真っ赤な唇が弧を描いた。


(ざまぁみない……クソ女)


手は後ろで縛られているため口しか使えなかったが、今から首を斬られて死ぬのだからもう我慢必要するつもりもない。

ルイーズにやられっぱなしではプライドが許さなかった。


牢の中でずっと考えていた。

何故キャンディスは愛されないのか、ルイーズは愛されるのか。

色々と考えたけれど、確かなことはキャンディスはルイーズにいいように使われていたという事実だった。



「愛されるのはお前じゃない。このわたくしなんだから……っ!」



違うとわかっていても、その思いだけは譲れなかった。

そう思い込んでいないと涙が溢れてしまう。

掠れた声と共にキャンディスの口端から血が伝っていく。

周囲からも『悪魔だ』という声と悲鳴が響き渡る。

騎士に蹴り飛ばされたとしても、キャンディスは折れなかった。

鋭く睨みつけると次第に騎士たちは後ろに後ずさっていく。


しかしその騎士たちと入れ替わるように父である皇帝がキャンディスの前に立つ。

姿を見てしまえば愛されたいという気持ちが込み上げてくる。

いつもと同じで冷たい瞳でキャンディスを見下ろしていた。



「俺がお前を愛することはない」


「…………」



今、父がキャンディスを映す瞳を見て、ずっと目を背けていた現実を知ることになる。

そこですべてを悟ったような気がした。


(ああ……わたくしはお父様にこんな目で見られていたのね)


それは血の繋がった娘を見るものではない背筋がゾッとするような冷たさだった。

まるでゴミを見るようだと思った。

そこで何かがプチリと切れたような気がした。

何のために今まで自分がやってきたのかがわからなくなってしまう。

血反吐が出るほどにがんばっても報われない理由を探していたが答えはこんなにも簡単だった。



「フフッ……アハハハッ!」


「…………」


「──アハハハハハハハハッ!」



キャンディスの笑い声が広場で響く。

目の前で父が剣を抜くのが見えた。


けれどキャンディスは笑うのを止められなかった。

銀色の光が見えた瞬間に視界が反転するとそこには血の海が広がる。

金色だったはずのペンダントはキャンディスの血に濡れて目の前で怪しく赤く光輝いている。

しかしその石も父に踏まれたことでバラバラに砕け散ってしまった。


(……このペンダントは、まるでわたくしみたい)


悲しみと絶望を抱きながらキャンディスは目を閉じた。

一筋の涙が頬に滑り落ちたような気がした。




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