第14話 片統輝悶/ペンステモン

 翌日。


 ハレルヤ学園 一階廊下


 威薔薇ノ棘のメンバー4人とヤヨイが話しながら歩いている。


「部長とエプロンさん、行っちゃったね」

「……うん。きっと今頃目的の場所についてやり合ってる頃かも?」


「部長らしくないのよ。無茶する事は昔からあったけど私達の意思は必ず尊重してくれてる人だったのにね…」

「でも、これが部長なりの優しさなんじゃない?エプロンさんも最初は2人だけで行くのは反対してたみたいだけど、部長の気持ちを汲んだんでしょ。2人とも優しいから。ほら、2人は私達が知り合う前から知り合いだったみたいだし、2人だけの通じ合える何かがきっとあったのよ。それにカカシの事で1番怒ってるのはきっと部長だから。自分が何とかしたかったんじゃない?」


「分かってるけどさ、そんな優しさなら必要ないわよ……もっと私達の事分かってくれてると思ってたのに」

「アシュラ……」


「だってエンジェルや皆も同じ気持ちでしょ?仲間が1人やられたんだよ。しかももう戻ってなんて来ない。私達にだって色々とアイツらにやり返したい事があるでしょ?それなのに勝手に変な心配して私達の役割を奪っちゃうなんてさ、最低よ!あんな奴!」

「……そんな事本気では思ってないくせによく言うよね」


「サシミってば、それ言っちゃダメなやつだから」

「……え?何で?」


「何でって…分かってるでしょ?」

「……分かってないから言ったんじゃん」

「それはそうなんだけど。……」


 小声で話すエンジェルとサシミ。


「いい?アシュラはね自分がツンデレだって事に気づいてないの。あの子はね今時珍しい天然のツンデレなんだよ!そんな貴重なツンデレ絶滅させる訳にはいかないじゃん。だから、本人の前で自分がツンデレだって気付くような発言はしちゃいけないの!もしも気づくような事があったらこんなやり取りも2度と出来ないんだからね」

「……そういうことね。でも、ちょっと面白いかも、ソレ」


「でしょ?それなら今はそっとやり過ごしてよ。かもなく不可もない発言で貴重なツンデレを生き残らせるのよ!」

「……分かった、任せて」


 ここに今天然ツンデレ保存同盟がヒッソリと設立した。


「2人ともヒソヒソ何話してんのー!?」


「「ウェッ!!」」


 何かを食べながら突然2人の耳元で大きな声で話しかけるアイツ。


「……うるさい」

「ちょっとびっくりするでしょ!ほら、耳がキーンってしてるじゃない!これで耳が聞こえ無くなっちゃったらどうするのよ!(もう2度と天然のツンデレを生で堪能することが出来なくなるわ)」

「ゴメンって。でも2人でヒソヒソ内緒話ししてる方が悪いんだからねー。ほら、アシュラだって相手してくれないから怒ってるよ」


 言われてアシュラの顔を見てみると、私達の方を見ながら頬を膨らませながら睨みつけているアシュラの姿が。


「か、かわいいぃっ!」


「……これが本人の自覚の無さが生む天然の破壊力。恐ろしい子…」


 2人は本人に聞こえない程のボリュームでリアクションをする。


「ちょっと、何よ?…なんか私の顔についてる?…なんか変?」

「全然変じゃないよ!世界が変わってもアシュラはこのままでいてくれて良かったなぁ〜って思っただけ。ね、サシミ」

「……感謝」


「どういう事……?」

「いいからいいから、気にしないで。って、さっきからちょいちょい見えてるんだけどさ、アンタは何食べてんのよ!?」


 聞かれてもまだムシャムシャ食べ続けるアイツ。


「え?あーーこれ?ヤヨイから貰ったの。まだあるから皆も食べる?」

「いらないわよ!……何なのよそれ?得体の知れない紫な食べ物は?」


「うーーん。何だろうね?食べてるけどよく分からないや。でも不味くはないよ。不味くは」

「じゃあ、美味しくもないのね。ソレ。でもよくこのタイミングでそんな物を食べながら話してられるわよね〜……アンタ、部長達のこと心配じゃないわけ?」


「心配?そんなのしたって仕方ないじゃん。エプロンさんは強いし、部長だってめちゃくちゃ強いんだから。そんなの私達が1番知ってるでしょ?」

「アンタもたまには真面目な事を言えるのね」


「そうだよ。驚いた?」

「うん。結構驚いた」


「でも、私も喧嘩が出来ないのは残念かな。たまには暴れないとストレス溜まっちゃうからさ……」

「それはさ、近いうちにきっといいタイミングがあるわよ。だからそれまで我慢してよね。絶対よ。そうじゃなきゃこっちが迷惑するんだから」

「分かってるって」


 話題を逸らそうとするエンジェル。


「あ、そうだ。そういえばヤヨイちゃん、気になったんだけどさアイツが食べてるあれってどんな食べ物なわけ?」

「…………………………」


「ねぇ、聞いてる?、ヤヨイちゃんってば!」

「あ、ハイ。聞いてますよ。あれは、この世界の豆腐みたいな物で、皆さんのいうところのハンバーグとポテトサラダの合間みたいなものですよ。この世界では人気のおやつなんです。名前は、忘れましたけど」


「どんな食べ物なのよ、ソレ……で、ヤヨイちゃんは心配なの?2人の事」

「当たり前じゃないですか。一応皆さんよりは奴らの怖さは知っているつもりです。だから、お二人のことを止めようとはしたんですけど。全然ダメで。でも私も強引に踏ん切りはつけました。こうなったら奇跡的にでもお二人が勝つことを祈るしかありませんから」


「意外と思いっきりな性格してるんだねヤヨイちゃん。その性格柄意外と苦労してきたんじゃない?私達とは気が合いそうな性格だけど」

「そうですね。これでも修羅場は何度か潜ってきたつもりですから。その経験が役にたつといいんですけど……。それに私がやれる事はやりましたから。それにアレも託しましたから何とかなりますよ、多分」


「色々と織り込み済みって事ね。なら、私達も信じて待つしかないわね。アシュラもそういう事だからそれでいいでしょ?」

「……そうするしかないじゃん、もう」


 話がまとまり5人は部室のある別棟に行こうとすると、サシミだけが歩みを止める。


「どうしたの?行かないの?」

「……ねぇ、エンジェル。アレ見て」

「ん、何?なんか面白いものでもあった?」


 指を指されたのは一年の教室。エンジェルは廊下越しの窓から教室内を覗いてみると。


「あのテレビに映ってるのってもしかして……まさか!」


 エンジェルは顔色を変え慌てて教室のドアを開けて飛び入る。


「どうしたのよ!?」


「……行けば分かる」


 残りも追いかけるように教室に入る。


「「えっ!!?」」


 突然の先輩達の強襲に驚くドヤガオとマケガオ。


 2人は暇でテレビを見ていたらしい。


「ねぇ、このチャンネルって何チャン?ねぇ、これってどうやって見てるの?」


後輩達を捲し立てるエンジェル。


「え?いや、」

「ごめんね、エンジェルが変な事聞いて。エンジェルも落ち着きなさいよ。…一体どうしちゃったのよ」

「みんなも見てよ!ほら、なんか気づかない?あそこに映ってる人達、見覚えない?あるよね!?」

「え?……えーー!!?」


 何かに気づいた先輩達。


「嘘。なんで?」


「ねぇ、これどうなってんの?なんであの人達がテレビに映ってるの!?ヤヨイ、どういう事よ?」

「私に聞かれても……。この世界にテレビは存在しません。そもそも家電がなければ電気すらも存在しないんですから。だからこんなのあり得ないんですって!」


 先輩達の驚きの様子についていけない後輩達。


「あの、これがどうかしたんですか?」

「え?気づいてないの、アンタ達?」

「……仕方ないよ。だって2人とも一年なんだし。あの人達の事見たことなくてもおかしくない。特に部長の顔はね」


「え!?どういう事ですか?」

「いい?あそこに映ってる女性2人組がいるでしょ?アレがウチのトップ2って事よ」


 テレビの画面には何故か処刑が行われる広場が中継されている。それも何故がカメラが複数あるような感じでちょこちょこと画面も切り替わっている。


「トップ2?え!となるとアレが威薔薇ノ棘の部長と副部長って事なんですか?」

「嘘。私聞いてない。ねぇ、なんで教えてくれないのよ?ドヤガオ」

「私も知らなかったのよ!副部長の顔はなんとな〜く知ってたけど部長の顔なんか見た事ないんだから私に分かる訳ないでしょ!」


 戸惑う後輩達を目にエンジェル達は怒涛の勢いで問い続ける。


「ねぇ、これどうやったわけ?どうやってテレビもなければカメラもないこの世界で映像を映し出してる訳?教えて」


「いや、えっと、私達にもそこら辺はさっぱりで……ただ少し前からここのテレビだけは日本の番組が見れるようになってたんです。理由は分かりませんが…」

「でも何故かテレ東しか見れないんですよーー。ちょっとって感じしません!?」

「マケガオ、その話は終わったでしょ?そんなの今はいいのよ」


「それで、どうしたの?」


「あ、はい。さっきまで私達はいつもの様にテレビを見て暇を潰していたんです。そしたら急にノイズが起き出して、不安に思っていたら突然チャンネルが切り替わってこれが映り出したんです。

普段なら他のボタンを押しても反応なんか無い筈なのに変なんです。そして今では逆に見えていた筈のテレ東にすらチャンネルを切り替えることが出来ません。ですから私達もよく分からないんです!」

「そうなんです〜。だから怒らないでください〜。もし怒るなら先にテレビをつけたドヤガオだけにして下さい。私は関係ないんです〜」

「ちょっと、アンタ!それはないんじゃない!なんだかんだ言っても私より楽しみながら見てたのはそっちでしょ?だから怒られるなら一緒に決まってるじゃない」


 バチバチと変なところで火花が上がりそうだ。


「2人ともやめなさい。私達は別に怒ってなんかいないわよ」


「そ、そうなんですか?」

「本当に?ですか?」


「本当にそうよ。寧ろアンタ達はお手柄なんだから。感謝を言わなくちゃね。ありがとう♡」


 まさかの反応に驚く後輩達。


「ねぇ、ドヤガオ。私達四天王に褒められてるよ〜。もしかして死ぬのかな〜?」

「落ち着きなさい。死なないわよ。きっと死なない。だって死ぬならとっくに私達なんかやられてるわよ」


 褒められても尚戸惑い続ける後輩達を背にアシュラ達はテレビを食い入るように見ている。


「部長。エプロンさん……」

「……ヤヨイ。一応聞くけどさ、部長達が乗ってるアレって何なの?」

「早速使ったって事ですよ。この学校の力をね」

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