第13話 流婆舞/ルバーブ
「仲直りしたみたいで良かったです。……あの、だったら助けに行くのやめません?」
2人の視線は一斉にヤヨイへ向く。そして空気が変わる。
「どういう意味や?」
「いや、だって!このまま行くのは死にに行くようなものじゃないですか!皆さんは喧嘩しに行くつもりでも奴らは殺しに来ますよ。遠慮もなしに……」
「でも、私達強いんでしょ?ヤヨイも言ってたじゃん?」
「それはそうですけど……でも、だからって勝てるわけありませんよ!奴らは戦いのプロなんですよ!いくら喧嘩に自信があっても皆さんとは基礎が違うんですから」
「……だけど私たちも学校の力のお陰で前より強くなってるんでしょ?だったら問題ないわよ」
「その通りです。能力のお陰で皆さんは今までより強くなっている事でしょう。でも、それはこの世界での平均に近づいて生活出来るようになっただけなんですよ!転生者や召喚者と違って魔法や固有スキルを持っているわけじゃない。
皆さんは常識はずれな能力も持っていないし基本の魔法も使えない。
いわゆるチートスキルも持っていないんですよ!
そんな皆さんが魔法やスキルを使う相手達に敵う訳がない。皆さんは想像の産物達と戦わなければいけない。ちょっと体が軽くなったからって勝てる奴らじゃないんですよ!……」
「……だから何?」
「……聞いてなかったんですか?皆さんじゃ勝てるわけがないって言ってるんです!」
「だからどうしたのよ?そんなの言われなくても私だって分かってる。だからって仲間やダチを助けない理由にはならないでしょ?そうだ、貴方にいいこと教えてあげるわ。私達、ヤンキーはね、負ける喧嘩だって分かってても売られた喧嘩は必ず買う生き物なの。それにね、最初から負けるつもりで挑むヤンキーも存在しないのよ」
「大丈夫やって。ウチらは負けへんから」
「それにヤンキーってね、常識が通じないのよ。私達みたいな奴には特にね。だから、私達もある意味この世界でもあり得ない存在だってわけ。それなら私達にだって勝ち目があったっておかしくないでしょ?」
「奴らにとってもウチらは転移者っていう予想外の存在みたいやしな。あっちもウチらの事はよく分からへんのや。それなら勝負は最後まで分からへんで!」
「そういう事」
「……分かってますよ。……そんなの、でもただの綺麗事じゃないですか!!喧嘩と違って負けたら病院送りになるんじゃない。負けたら死んでしまうんですよ!……皆さんだって死にたがりってわけじゃないでしょう?だったら生きましょうよ!ここで逃げても誰も責める人はいないんですから!」
「綺麗事が言えなくなったらね、人は終わりなの。私にとって綺麗事ってのは野心とか希望とか色々な物が詰まった大切なものだと思ってるの。それが無くなっても人が死ぬ事は無いし生きていく事はできる。だけど空っぽのまま生きたってしょうがないでしょ。それを無くしてまで生きるくらいなら私は喜んで死を選ぶわ。だけど今の私にはまだ大切にしたい綺麗事がある。それにね、綺麗事すら言えない奴に私を止める権利は無いのよ」
「…………」
「心配してくれたのは嬉しい。だから貴方は期待して待っていて。綺麗事ってのがあり得ないって意味じゃないのを教えてあげるから」
ヤヨイの返事は返ってこなかったが最後は静かに頷いた。
「そんなら、ガールズトークはここら辺でお開きにしようか?ウチは明日の喧嘩の事皆に話してくるわ。戦闘準備はいつだって大切やからな!」
「待って」
「うん?どうしたん?」
「明日行くのは私と沙莉の2人だけでいい」
「はぁあ!それ本気で言ってんの?」
「そうですよ。遥さん。それは流石に無謀ですって!それこそあり得ませんよ!」
「とにかくそういう事だから。皆には私から伝えておく。それで問題ないでしょ」
「納得させられるん?誰もそんな事望んでへんのに納得するとは思えへんけど」
「望んでようがなかろうが私の決定には従ってもらう。それだけよ」
「これが遥の優しさか…他の奴らを巻き込みたくないんやろ?もうカカシみたいな目には遭わせたくない。だから珍しく、らしくないそんなワガママいうんやろ?」
「当然でしょ。この学園の頂点を担う者としてこれ以上仲間を殺させる訳にはいかないのよ。仮に私達が負けてもあの子達さえ残っていればどうとでもなる。負ける気はないけど最悪な事態を考えない程私はバカじゃない」
「……分かったよ。遥の言ってる事はごもっともや。ウチもそれには尊重するわ。でも、これで喜ぶ奴はウチの学園にはきっとおらんやろうな…」
「そんなのみなまで言わなくてもそんなの分かってるわよ……。だからワガママなんでしょ…」
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