第12話 緋羅儀/ヒイラギ
「それならそろそろ教えてくださいよ。この文字なんて読むんですか?これ」
書かれている文字は「愛羅武勇」であった。
「アイ・ラブ・ユー」
「え!?」
「だから、アイラブユー」
「いや、2回言ってくれって訳じゃないんですよ!コレ、そんな意味なんですか?ちょっと難しくないですか?!」
「そう?これ結構簡単な組み合わせだと思うけど」
「そう言えばちょっと気になったねんけど。なんでこの世界の共通言語が日本語になったのにこの手の漢字は読めへんの?どれも難しい漢字の組み合わせちゃうのに」
「それは多分この世界では漢字が存在しないからだと思います」
「あ、そうなん?」
「はい。お2人とも街には行かれた事はありますか?」
「私はあるで」
「外にはあまり興味ないから……」
「それならエプロンさん。街の様子を思い返して見てください。看板や貼り紙、そこに書いてある文字は全てひらがなだったはず」
「ああ!確かにそうやったな。どうりでちょっと見づらいと思ったわけや」
「で!内容は?言葉の意味通り問答無用に誰かを惚れさせるとか?でも、学校がモテても仕方ないか?」
「あながち間違ってもいませんよ。愛羅武勇のスキルは、この世界全てのモンスターに愛され敵対意思を持たせない。ただデメリットとして敵対意思を持った人間には嫌われ些細なことでも怒らせてしまうっていう嫌な代償があります。そしてこの能力の面白いところは、能力の対象が学校ではなく皆さんであるという事」
「じゃあ、色々な意味でモテるようになるのは私達だけって事ね」
「そういう事です」
「なるほどな。これで色々と納得が言ったわ。危険だと言われるこの森で一度もモンスターと出会わなかったのは私達が敵だとは認識されてなかったからって事が原因やな」
「でもそうなると引っかかる事がひとつある」
「なに?」
「私達はともかく、この森に入って来たダイチノ騎士団やヤヨイに対してモンスターが襲って来ないのは変じゃない?」
「それは恐らく、皆さんがモンスターに必要以上に愛されている事が原因だと思います。分かりやすく言うとモンスターにとって皆さんは従うべき存在。もっと要約すれば皆さんは飼い主だって事です。私を襲わなかったのも皆さんの支持がなかったからなのでは。モンスター達が姿を表さないのも皆さんの指示がないから。そう考えれば納得できるでしょ?ですからきっと彼らモンスターも皆さんの事を待ってると思いますよ。いつか会ってあげてください」
「そんな事言われても、私達は知らなかったからなー」
「どんなモンスター達がいるのかも知らないし」
「そんなの関係ないですよ。皆さんは愛されてるんです。皆さんが呼びかければその想いに応えてモンスター達も力を貸してくれる筈ですよ。この手の能力はそういうもんですから」
「随分えらいくわしいなーー。ヤヨイ」
「いや、書いてあるんで。そだけですよ。だって私は見て伝えるのが仕事ですから」
「……奴らが私達をやたらと目の敵にするのもその能力のせいって事よね?」
「はい、間違いないと思います。敵意を覚えた相手に更に悪意を植え付けるのがこの能力の代償みたいですから」
「それ何とかならんのか?それだけ発動しないようにとか上手い事さ」
「無理ですよ。これはあくまでも能力の代償なんです。それだけを拒むなんて都合の良い事は出来ません。それにこれは能力の対象は皆さんだとしても能力の発動者はこの建物なんです。仮に能力が制御が出来たとしてもそれが出来るのは発動者だけ。……どなたかこの建物とお話し出来る方はいらっしゃいますか?」
「……分かったよ。私が悪かったわ。そんなんいるわけないやろ」
「そういう事です。でも、この能力嫌な事だらけじゃないですよ」
「他にも何かあるの?」
「ええ。実はこの能力2つとも使用制限が存在しないんです。それも常に永続的使われてる。つまりこの学校がある限り皆さんは常に能力の対象になってるって事です」
「もっと分かりやすく言うと?」
「急に能力が無くなったりして言葉が伝わらなくなったり急にモンスターに襲われたりしなくて済むって事です!」
「なるほど。永遠にモンスターに襲われる事はなくても永遠に人間達には嫌われ続けるって事か」
「フッ。なんかウチららしいなぁ。この感じ。日本もこの世界もウチらに対しては何も変わらないって事やな」
「その方が分かりやすくて助かる」
「皆さんはお強いのですね。物理的にも精神的にも」
「……修羅場には慣れてるから」
「それにウチらは昔から嫌われ者で変わり者集まりやからなぁ。このくらいの出来事が起こっても何も不思議やないよ。だって変わってるんやからしゃあない。もう慣れた」
「そんな皆さんにピッタリな能力がもうひとつ。これが最後です。あ、これは読めるんでこのまま言葉で伝えちゃいますね。文字も意味もそのまんまなんで。能力名は喧嘩上等」
「これは分かりやすくて助かるわ!それにほんまピッタリやな!内容は多分、文字通り喧嘩に対して強くなるみたいな事やろ?」
「殆ど正解です。ただ正確には身体能力の大幅な上昇です。さっきの2つと比べると少ししょぼい風にも聞こえるかもしれませんけど十分強力な能力である事に変わりはありません」
「だからか」
「だからか、って何がです?」
「いやな、この前、遥が奴らをボコボコにした時、先頭のお偉いさんみたいな奴の鎧兜を一発で蹴り割ったんよ」
「え!!?」
「ちょっと……やめてよ。恥ずかしいじゃん…」
少しだけ頬を赤くして何故か照れる遥。
「遥さん。それ本当なんですか?」
「……うん。だけど、私的には軽く蹴っただけなんだよ。まぁ、ちょっといつもより体が軽い感じはしたけど」
「いやいや、軽く蹴っただけで壊れる物じゃないですよアレ。騎士団が装備している鎧は下級兵士の物でもこの世界の土地と一軒家が買える程の上等な装備なんですよ。しかもお偉いさんって…もしかして、カイゼルって人じゃないですよね?」
「うん。そんな名前だったと思うけど」
「やっぱり。カイゼルはダイチノ騎士団の副団長ですよ!副団長って事は装備している鎧もより高価で強固な物って事ですよ!?それを蹴り割るなんて…どうかしてますってその蹴りは!」
「そんなに言わないでよ。わざとじゃないんだから……」
うるうるした瞳と表情でヤヨイを見つめる。
「あ、いや、別に責めてるつもりじゃないんですよ。ただ、凄すぎて驚いただけで、いや、そんな顔しないでくださいよー」
「ヤヨイ。心配せんでも遥は気にしてへんから。これも全部ノリでやってるだけの演技やから」
「……バラすの早すぎ。つまらない」
「でも、遥が蹴り割れたのもその能力のお陰って事やろ?」
「勿論それも関係はしていると思いますが……そこまで影響してない気もします」
「え!?」
「この能力は身体能力の向上なんです。普通に考えて身体能力が向上したからと言って鋼鉄の鎧を蹴り割れるとはとても思えません。ですからこの能力の対象は皆さんでもそんな事が出来るのは遥さんだけだと思います…」
「やっぱり遥はこの世界でも異常って事やな!!あはははははは!」
「……沙莉。……お口チャック」
「ごめんなさい」
「でも、凄い事には変わりありませんから!自信持ってくださいよ!遥さん!」
「それ褒めてる?」
「も、勿論!褒めてますよー!」
「そ。なら、いいよ。ヤヨイは許してあげる。でも……」
エプロンを静かに睨みつける遥。
「え、私は許してもらえへんの?そんな殺生な……遥の事を1番知ってるのは私の筈やろ」
「……だったら、私が本当に怒ってないのも分かってるでしょ?バカ……」
「遥……」
「仲直りしたみたいで良かったです。……あの、だったら助けに行くのやめません?」
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