第10話 咲暴天/サボテン

学園 校門前


 先に行った遥に周りがようやく追いついた。


 だが、目の前にいるのは遥だけではなかった。


 ボロボロになって血塗れのカカシを必死に背負うカモメの姿がそこにはあった。


 その姿に周囲は騒然としている。


「カモメ!?それに、カカシまで!?どうなってんのよ!?」


 戸惑いを見せながらアシュラは1番に2人のもとへ駆け寄り介抱する。


「アシュラさん……すみません。ハァ。ハァ。私……」

「大丈夫だから。理由も分かってないのに勝手に謝らないでよ!話はとにかく2人とも手当てをしてからよ。サシミ!いるなら、手当てに必要そうな道具全部持って来て!!早く!」


「……いるよ。それにもう持ってきた。これだけあれば足りるかな?」


 いなかったはずのサシミが大量の医療道具を持ちそこにいる。


「さぁね。でも、なんとかするのよ!ほら、体見せて!」

「私なんか大丈夫です……でも、カカシは。……カカシは!!」


 背負われていたカカシをアシュラが介抱しようとすると力は抜け体は冷たくなり大量の出血で制服を汚した事が一瞬で分かる。


 もう、手当の意味が無いことも。


「嘘でしょ……」


「すみません……皆さん。私、私のせいでカカシは…」


「カモメのせいやない。自分の事を過大評価し過ぎや」


「エプロンさん…」


 項垂れるカモメの側にそっと遥に近寄り抱きしめる。


「部長。すみません。……スミマセンッ」

「あなたは生きてくれてて良かった」


「私も、私もあそこで死ぬはずだった。だけど私は生かされたんです。死んだ方がきっと……」

「ダメ。それ以上言ったら怒るよ」


「……でも、私は!」

「カカシの事を思うならそれ以上はダメよ!。私は死を否定しない。でも今はダメ。生きなさい。もし、もうあなたに生きる理由がないのなら私のために生きて。私が納得するまでは私が死なせない」


「部長……」

「大丈夫。あなたが生きてる事をカカシなら否定はなんかしないわ。寧ろ喜んでいると思う。自分のやりたい事をやった結果なんだから。側にいたあなたなら分かってるはず」

「…………はい。でも、私が生きるなら死なせちゃいけない奴がもう1人います。オジョウを助けてあげてください…」


 カモメは遥に血で汚れてしまったた手紙を渡す。


「……アシュラ!」

「はい!」


「カモメとカカシの事頼んでいい?他のみんなにもお願い」


「勿論です」


「……任せてください」


「部長。私達の分までやっちゃってくださいね。絶対ですよ。そうじゃないと私、自分でもどうするか分からないんで」


「うん、分かってる。だからここは任せた。そして任された。エプロンは私と来て。後、ヤヨイもよ」

「え!?私もですか?」

「はいよ。ほな、ヤヨイも一緒に行こうか?」


「いや、でも、私に戦いとかは無理ですよ」

「誰もそんな事言ってへんやろ。それはまた後の話や。今からすんのは私達だけの秘密のガールズトークや」


「が、ガールズトーク?」

「早速役に立てそうでよかったなぁ。ヤヨイちゃん」


「えぇぇーっ」


 半ば強引にヤヨイを連れて行く。



 ハレルヤ女学園 屋上


 ヤヨイの顔面スレスレに近づいたまま何故か離れない


「あ、あの〜……」


「遥。そこら辺にしとき。気持ちは分かるけどヤヨイに当たっても仕方ないやろ」


 エプロンの声を聞き入れた遥はヤヨイと距離をとる。


「分かってるよ。でも、なんとなく気が済まなかっただけ。だけどもう、満足。安心して。……ヤヨイ。聞いてもいい?」

「え?あ、ハイ。なんでしょう?」


「アナタ、私達の味方なんだよね?」

「…はい。私はそのつもりです」

「なら、なんでもしてくれる?私達の為になんでも。アナタ、役に立つんでしょ?」


 遥の表情は冷たくヤヨイをじっと見つめる。じーーーっと。


「……何をさせるつもりかさっぱり分かりませんけど、私ができる事ならなんでもしますよ」

「本当に?」


「本当に」

「……そう。なら、ヤヨイの知ってる事全部教えて。知らない事は調べて。私の質問には必ず意味を持って答える事。いい?」


 ヤヨイの表情が変わる。


「はい。喜んで。……で、何が知りたいんです?なんでもお答えしますよ。私、記憶力には自信あるので」

「…じゃあこれ。どういう事?」


 ヤヨイに一枚の手紙を渡す。


「これは……なるほど。アイツら、久々にやるんですね。この世界でも珍しいアレを」

「ちょっ、どういう事や。2人だけでずるいわ。こっちにも説明してや」

「あ、どうぞ。見れば分かりますよ」


 今度はヤヨイがエプロンに手紙を渡す。


「これって、さっきカモメが遥に渡してたヤツやんなぁ?」

「うん」


 中身を読んだエプロンは絶叫する。


「なんやコレっ!!!どういうこっちゃ!!……コイツら正気なんか?それともコレがこの世界では普通なんか!?」

「いいえ。少し前ならそういう事もあったみたいですけど、最近じゃ滅多な事があってもやりませんよ。…処刑なんかこの世界でも簡単にするもんじゃないんですから」

「そうやろ?それなのになんでオジョウがそんな目に合わなきゃいかんの?私達何もしてへんやろうが!!」


 キレたエプロンはヤヨイに掴みかかる。


「ッ!気持ちは察しますが私に当たらないでくださいよ!」

「沙莉。アンタが私に言ったんでしょ?ヤヨイに当たっても仕方ないって。言ってた側から自分が否定しないでよ。らしくない…」


 渋々手を離す。


「ごめんな……ちょっと感情的になりすぎたわ。悪い」

「いえ…無理ないです。それに、怒るのは当然ですよ。私だってアイツらのこんなやり方嫌いなんですから!!」

「それなら教えて。ヤヨイが知ってるダイチノ騎士団の全ての情報を。当然、オモテもウラもね。知らないとは言わせない」


「……知らないわけないないじゃないですか。この私が。職業がらどんだけ男達の相手をしてきたと思ってるんです?そりゃあ、知ってるに決まってるじゃないですか。あんな事やこんな事、いろいろ知ってますよ〜。さて、どれから聞きます?」

「どれでもいい。結局全部聞くんだから」


「ですね。それでしたら、まずは基本情報からおさらいしましょうか。何事も基本が大事って言いますからね。ダイチノ騎士団ってのは此処、バルキュリア王国が率いる最高戦力であるバルキュリア七騎士団のひとつです」

「それは知ってる。この前自分で偉そうに言ってたの聞いてたから」


「言ってた?ってどういうことです?」

「ちょっと前にそう名乗る奴らがここに攻めてきたねん。まぁ、来た奴ら全員遥がボコボコにしてたけどな」


「はぁ。そうだったんですね。……それにしても本当に皆さんはお強いんですね。なんとなくただ者じゃないってのは分かってましたけど、まさかそれ程とは」

「そんなに驚く事か?遥が規格外なのは別としてや。ウチも見てただけやけど奴らがそんなに強いとは思えへんかったよ」


「そう見えたのなら遥さんが規格外なだけですよ。それか、見ていた皆さんも規格外すぎて比較にならなかっただけでは?」

「そうか?それにアンタ、遙と同じこと言うねんな」


「え?」

「いや、気にせんどいて」


「あ、はい。確かにダイチノ騎士団はお二人が言うみたいに七騎士団の中では弱い部類に入るかもしれません。しかしそれは七騎士団の中ではの話です。一般的に考えれば普通の民間人が勝てるレベルでは絶対にない。他の騎士団がこれ以上めちゃくちゃ強すぎるんです。ですから、ダイチノ騎士団以外の騎士団は滅多な事がない限り姿を表しません。少し話題に出ただけで珍しがられるくらいですから」

「他の奴らはそんなに強いん?」


「ええ。強いですよ。私も見たことも会った事もありませんし噂程度しか知らないので確実な事は分からないんですけど。ただ聞いた話によると、ダイチノ騎士団をドラゴンに例えるなら他の騎士団は生物ですらないらしいですから」

「は?どういう事や?!」


「私も真意は分かりませんよ。私も酒場の常連に聞いただけなんですから。でも、この世界で最も凶悪なモンスターと言われるドラゴンより強いって事はそれ以上に例える物が存在しないって意味じゃないですか?」

「……幾らソイツらが強かろうが今は関係ない。相手にするのはこの前の奴らだけなんだから」


「それはそうですが…一応念の為です。今後、何があるか分からないんで」

「それでダイチノ騎士団って奴らは一体何が目的なんや?オジョウを攫ったのもカカシをやったのもこの前の仕返しか?本当にそれだけなんか?だったらあそこまでする必要あったんか?!」


「落ち着いて下さい。いいですか?ダイチノ騎士団はですね、この国の防衛と街の秩序を護る言わば自警団のような役割も担っているんです」

「嘘やろ?無茶苦茶なことやってる奴らが警察なんか!?」


「自警団って言った方が意味合い的には近いかもしれませんがね。ダイチノ騎士団は騎士団の中でも最も兵隊の数が多い騎士団です。普通、騎士団に入る為には様々な条件やテストを受けて合格しなければなりません。ですから力や腕に自信があるからと言って入れるわけじゃない。

でも奴らは違う。

入団する為の条件は表向きには存在しますが簡単に達成できるものばかり。テストだって駆け出しの冒険者でも簡単にクリア出来るって聞きます。言わばやる気さえあれば入団するのは簡単に出来るって事です」

「それで?」


「騎士団に入るって事はそれと同時にそれなりの権力を手に入れるという事です。新米の兵士でも騎士団というだけで国民より身分は上になる。上になるのが身分だけならまだしも態度までもが上になる。正直それが1番問題なんですよ。今まで温厚で優しかった奴が入団をきっかけに性格が一変したって話は珍しい話ではありません。

しかも入団するのに必要な資格は国民である事だけ。腕に自信があるごろつきや過去に犯罪を犯した奴らも騎士になって簡単に権力を得る事が出来る。秩序や平和を守るってのは上辺だけで実際にやってる事と言えば騎士の権力を盾にして好き勝手に暴れまくるワガママ迷惑野郎の集まりですよ。ですからダイチノ騎士団はこの国で1番有名な騎士団で国民から1番嫌われている集団なんです」

「つまりわかりやすく言うと警察の身分を持ったヤクザの集団って事やな。よく分かったわ」

「聞いた感じヤクザより迷惑で面倒そうだけど」


「それもそうやな。こっちの方がある意味よっぽどたちが悪いわな」

「…とにかく!、それだけ危険でヤバい奴らだって事です。分かりました?」


「奴らの事は分かったわ。でもなんでソイツらが私達を目の敵にする必要があるねん?理由はなんやねん!?」

「それは……分かりません」


「……ホンマか?」

「はい。ただひとつきっかけになったとすればこの場所が原因だと思います」


「……幻魔ノ森。ここそう言うんでしょ?」

「やっぱりご存知だったんですね」


「うん。奴らがこの前言ってたから」

「その通りです。ここはこの国で1番近い最も危険な場所と言われています。だから普通の人間は近づかない。冒険者でも資格を持った実力者しかこの森に入る事は出来ないようになっていますから。だからこそ国に目をつけられた」


「だからって私ら何もしてへんよ。気づいたら此処にいただけなんやから」

「分かってます。でも国や奴らからしたらここに来た理由なんてどうでもいいんです。危険な場所に突如として現れた謎の建造物。そして一緒に現れた規格外の生物。それによって何が起こるのか、どんな意味があるのか分からない以上、国にとっては敵でしかないんですよ。知ってました?実はここ最近、街の中ではその話で持ちっきりなんですよ」

「そうなん?じゃあ、意外なところで私達は人気者やな」


「沙莉……」

「ごめんなさい」


「いいですか?それだけ国や国民も突然の出来事に不安を抱いてるって事なんです。そうなったら国自体が動かないわけには行きません。だから、ダイチノ騎士団がここを調べに来た。そういうわけです。……でも結果は国や奴らが思ってる風には行かなかった。だって皆さんの事ですから、奴らの言葉に殆ど耳も貸さずに奴らをボコボコにしちゃったんでしょ?」

「言い方が悪い。あっちが先に私達を襲おうとしたからそれに対して反撃しただけ。あっちだって話し合いをする気なんて無かったみたいだし」


「そうやで。それにやったのは遥だけや。私達は遠くから見てただけなんやからな。誤解せんといて。まぁ、見てた感じ反撃ってより圧倒的に遥の方が奴らを殴ったり蹴ったりしとったけどな」

「ちょっと余計な事言わないでよ。そもそも先に喧嘩を売ったのはあっちでしょ?こっちに非はないわ」


「分かっとるって。それが私らのやり方なんやからな」

「とにかく、奴らはプライドが高いんです。気をつけて下さい。やられたらやり返すじゃ済まないのが奴らのやり方ですから」


「そのやり方が人質とって公開処刑って事か。ほんま卑怯な奴らやな!」

「はい……お分かりかもしれませんが奴らの目的はそれだけじゃない。仲間を助けに来るであろう皆さんもターゲットなんですよ。仮に皆さんが来ないなら来ないで、処刑の全貌を見せつける事で皆さんや国民にはむかったらどうなるのかって見せしめになります。力を見せつけ権力を振りかざしたい奴らにとってメリットしかないんですよ。当然、現場には奴らも大量の兵士を配備してここぞとばかりに待ち構えているはずです。奴らは負ける気も負ける予定もないんですよ。その事分かってますよね?」


「勿論。売られた喧嘩は全て買うし売るべき喧嘩は必ず売り切る。それが私達のプライドだ」

「そういうこっちゃ!心配せんでも大丈夫や。遥は強いんやから」

「分かってますよ。そんなの……だって私見えてるんですから」


「見えてる?何が?」

「…私には見えるんです。物の情報も人の強さも全部私が知りたい事はなんでも…」

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