第5話 駆璃寿魔蘇ノ薔薇/クリスマスローズ
園芸部 部室にて
「「部長、お疲れ様でした!!」」
エプロン以外の園芸部員達が全員頭を下げて戦いから帰ってきた部長を労う。
「…うん。でも別に大したことはしてないんだから頭上げてよね。恥ずかしい」
「いえ、あれだけの男達を容易く倒してしまうなんて流石です。あんな真似私にはとても出来ませんから…このくらい当然ですよ」
「アシュラ」
「はい。なんでしょう?」
「アンタはもっと自信を持ちなさい。アシュラは強いんだから。もちろん、エンジェルとサシミもね」
「……はい、心がけます」
「私は自分が1番可愛くてそこそこ強いのは分かってまーす!」
「……それを自分で言う?」
「いいじゃん。さっき部長が言ってたでしょ?自分に自信を持ちなさいって。だから、サシミも自分の強み叫んでみたら?きっと楽しいわよー」
「……私はいいよ。叫ばなくても自信はあるから」
「そんな事言わないで、叫びなって。ほら、憧れの部長も見てるんだから」
遥とサシミの目が合う。
「え、……嫌だよ。…恥ずかしいじゃん」
エンジェルの言葉責めにサシミの頬が少し赤くなり、慌てて目を逸らす。
「デレた…あのサシミがデレたよ!ほら、アシュラ見てって。サシミが赤くなってるよ。このままじゃ火が通っちゃう!あははっ…って、アシュラ聞いてんの?」
「……ん?あ、ああ。聞いてる。あんまり茶化さないであげなよ。サシミが怒ったら…文字通り私達じゃ目に追えない速さで仕返しされるわよ」
「え……サシミはそんな事しないもんね〜。だってサシミは私の事嫌いじゃないよね?大好きだよねー。好きって言ってー!」
サシミに近づき必死に説得を試みるが、サシミは一切表情を変えないまま。
「……嫌い。かも?」
それだけ言い残すとサシミの姿は一瞬で見えなくなる。
「え、サシミ?サシミさん!?」
「ほら、言わんこっちゃない。私は知らないわよー」
「ねぇ、そんなこと言わないでサシミのご機嫌取り手伝ってよー。ね、お願いだから。お願いです。アシュラ様ー!」
「……今回だけよ。私だって別に暇じゃないんだから。特別だからね」
「ありがとうございます!アシュラ様!!」
「…じゃあ、校内探しに行くよ。きっと外には出てないと思うから」
「うん!」
アシュラとエンジェルの会話は途切れないまま部室を後にする。
そして、園芸部に残っているのは2人だけ。
「ほんま、あの子達は騒がしいな〜。一緒だと暇せずに済むからありがたいわー」
「まだ、アイツがいないんだから静かな方でしょ」
「そうやったな。って、アイツはほんと一体どこに行ったんやろ?」
「いいよ。ほっとけば。私達は別に仲間であっても家族じゃないんだから。好きにさせておけば。それに、アイツなら大丈夫でしょ。こういう世界好きそうだだし」
「そうやなぁ。家族じゃないけど仲間だから信頼はある。そういう事やな?そういう事が言いたいんやろ?」
「わざわざ繰り返さなくていいわよ。そこまでは言ってない。それより、ちょっと前からずっと気になってたんだけどさ私と2人きりの時ぐらいその喋り方やめたらどう?」
「やめるって何を?」
「その、なんとなくだけで喋ってる感じの関西弁。別に、関西出身ってわけでもないんだからさ。そんな喋り方する必要ないでしょ。それにウチには関西出身の生徒がいないからいいけど、いたら色々面倒な事を言われるわよ」
「ええやん。遥が言った通りなんとなくで喋ってるだけやけど、ウチはこの喋り方結構気に入ってんねんで。それに、関西弁の方がここぞのの時に力を見せるって感じの強者感がでると思わへん?」
「そう?ま、自分が気に入ってるなら私はこれ以上言わないけど」
「ええんよ。これが私の個性なんやから。しかも今は異世界。ここなら誰も正しいイントネーションなんて分かるわけないんやから」
「慣れたからもういいわよ。好きにして」
「それにしてもさっきの戦い、窓越しから見ても分かったけど、遥の戦い方は相変わらずやな〜」
「相変わらずって…私は何も変わってないんだから変わるわけないでしょ」
「それはそうなんやけど、そういう事でもないんよ。昔から無茶苦茶な戦い方をしてるって事を言ってんの。人間離れした身体能力と桁外れの喧嘩の才能。住んでる世界が変わってもそれは変わってない。寧ろ、前より強くなってへんか?」
「そう?自分ではあんまり実感ないけど」
「だってそうやろ。今までならさすがの遥でも甲冑をひと蹴りで叩き割るなんてとんでもない芸当は流石にでけへんかったやろ?」
「さぁね?前はそんなの蹴った事ないから分からないわよ。…校舎の壁を少し蹴り壊した事はあるけど」
「壁!?…まさか、別棟裏の抉れたあの部分。あれって災害とかで壊れたんじゃなくて遥がやったやつなん!?嘘やろ?!」
「……本当よ。2年の時にちょっとね。でも、この事知ってるの莉沙だけだから、他のみんなには秘密にしてよね」
「分かってる。でも、言ったら言ったで面白い事にはやりそうけどねー」
「それでもだめよ。いくら面白い事になっても」
「でも、面白い事になるのは大歓迎やろ?」
「……まぁね」
「それにしても、遥の無茶苦茶ぶりは異世界に来る前からチート級の女なんやなぁ」
「何それ?チート級?……格闘技かなんかの新しい階級かなにか?」
「あははは。遥らしい。そうやなくて、最近流行りの漫画とかアニメでよくあるやろ?私達みたいに異世界に来たヤツらが規格外の力で無双していくみたいなお話」
「ああ…。なんか聞いたことあるかも」
「やろ?日本で流行ってるからな。まさに遥の戦い方がそれやねん」
「でも、私は今まで通り普通に戦っただけだから。何も変わってないよ。いつもより体が少し軽く感じた気はするけど」
「遙は日本にいた頃から無茶苦茶やったからな。たしかにそれは変わってへんわ」
「褒めてるの?」
「褒めてるよ。他にどんな意味があんねん」
「……そ。なら、いいけど」
「でも、遥の強さが異世界でも通じる事は分かったけど私達はどうなんやろな?」
「大丈夫でしょ。みんなそこそこ強いし」
「それはそうやけど。って遙、もしかして褒めてくれてる?」
「いや、事実を言っただけ」
「ええやん。照れへんでも私だけなんやから。正直に言ってみ?ほら?」
「…照れてないって。だって事実でしょ。みんなが強いのは」
「それを世間では褒めてるって言うんよ。……だけど、正直な話。もしさっきみたいに戦いになったらウチも含めてみんなは遥みたいに強くあらへん。この世界の強さがどれくらいなのかはよく分からんけど普通に考えたら確実に負ける。だってウチらの世界での想像上のキャラクターと実際に戦わなきゃいけないんやで。そうなったら何があってもおかしくあらへん。ただ喧嘩に自信があるだけのウチらがそんな奴らとまともと戦って無事でいられるんやろうか?」
「心配なんてらしくないわね。だけど大丈夫。私達は私達のままでいればそれでいいのよ。だって私達は強いんだから」
「遥……」
「この学園の頂点として断言してもいい。異世界だろうがなんだろうが私達は負けない。それに、規格外なのは私だけじゃない。ここにいるみんなだから。みんな日本では厄介物扱いされてたんだから。みんな同じよ」
「そうやな!遥が言うなら間違いないわ!言われてみたら私達はみんな変わり者の集まりやからな。私達の常識が通じない異世界ぐらいが私達にとってはちょうどいいぐらいかもしれへんな。でも、私達も規格外なら遥は超規格外って事か?でもそうなるとまるで不良品みたいやな?…あ、怒らへんどいてよ!?悪口で言ったんちゃうんやからね!?いい意味でやから。いい意味で」
「……分かってるよ。なんでもいいけど化け物扱いだけはやめてよね?一応、女の子なんだから……」
「遥…戦っている間になんかあったん?」
こんな何気もない会話で彼女達の1日はいつものように過ぎていく。住んでいる世界が変わろうが彼女達にとっては全く関係ないようですから。
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