第6話 錬凛音/ネリネ
ダイチノ騎士団 本部にて
多くの兵士の前で1人の男が見せしめのように縛られ尋問にかけられている。
「……で、どういう事かもう一度ゆっくりと説明して貰おうか?カイゼル。勿論、俺が納得のいく説明をな」
ダイチノ騎士団 団長 バイラス
「はい、団長……。我々はゲンマノモリに突如現れた城の偵察、及び制圧を目的として、向かいました…」
「知ってる。俺が命令したんだからよ。で、なんなんだ」
「……そして我々はその城の主と思われる人物と接触に成功。その人物は我々の想定とは大きく異なる存在であり力を持っていたのです……」
「だから、負けたと。だから、負けても仕方もなかったとそう言いたいのか?」
「いいえ!そんなつもりはまったく……。しかし」
「しかし?」
「しかし、あの少女が異質な存在である事は間違いありません。恐らく、彼女は転移者。どうやって来たかは分かりませんが普通じゃない。噂が本当なら転移者は魔法もスキルも使う事は出来ないはず。それなのに我々はあっさりと負けた……そんな事は普通、あり得るわけがないのですから」
「そうだなぁ……我々、ダイチノ騎士団がそんな奴らに負ける筈がない。しかもお前は副団長。俺よりは弱いが他の奴らよりは強いはずだ。そうだよなぁ?……そうだと言えよ」
「……はい」
「だったらなんで負けてんだぁ!!!」
バイラスが怒声を挙げ凄んだ瞬間、カイゼルの片腕が曲がってはいけない方向に曲がってしまう。
「ぐぁっ!!、ぐっ……申し訳、ありません」
「あ、誤解するなよ。俺は別にお前を責めたいわけじゃないんだ。お前が負けて帰ってきたのは仕方ない。何かと準備不足だったんだ。この結果は騎士として恥ではあるが俺の恥じゃないからな、俺は気にしない。ただ、嘘を吐くなって言ってんだ!」
「……嘘など、言っておりません。私はただ、事実を述べただけです」
「だったらなんで負けてんだっ!相手は魔法も使えない転移者なんだろ?しかも他の奴らの報告によるとあの城には女しかいないらしいじゃないか。だったら尚更負ける理由なんて無い筈だよなぁ?」
「……ですから、奴らは異常なんです!魔法も使えない転移者の女が私の兜を容易く蹴り壊したんですよ。何か秘密があるとしか考えられない……」
「秘密なんかないだろ?」
「え?」
「相手は転移者なんかじゃない。ただの魔物だ。そういう事だろ?」
「は?…いいえ、私も最初はそれを疑いましたが、奴は間違いなく人間です。異質な存在である事も間違いありませんが…」
「異質なのは当然だろ。魔物なんだから」
「ですからっ…!」
「俺が言った事だけが事実なんだよ!事実なんかどうでもいい、奴は人の形をしただけのただの魔物だ。そういう事にしておけばいい」
「…どういう事ですか?」
「分からないのか?そうでもしないと俺の評価が下がっちまうだろうが!!そこら辺のゴミとなんら変わらない転移者に俺の騎士団が負けたなんて噂が広がっちまったら俺の出世に影響するんだよ!それならまだ得体の知らない魔物にやられたって広まる方が面子が立つだろうが」
「……お言葉ですが、今は我々の面子よりこの国の事を第一に考えるべきです。早くこの事を他の騎士団にも共有して、あの異質な存在を一刻も早く倒す方法を考えなければならないのでは!」
「そんな事出来るわけないだろ!それに、奴はただの魔物なんだ。魔物相手に俺が他の騎士団の奴らに頭を下げろと言うのか?それこそあり得ない。俺達は俺達のやり方で奴らを殲滅する。そうすれば全ては丸く収まるんだ。お前の失態は無くなり俺の評価は守られる。それでいいだろ?」
「彼女は強いですよ…我々が束になっても敵わなかったのですから」
「だからどうした。そんなの俺達には関係ないだろ?俺達は俺達のやり方でやればいいだけだ」
「……」
「カイゼル。さっきはお前の事嘘つき呼ばわりしたが俺は別にお前の事を信じてないわけじゃない。誤解しないでくれよ。さっきのはあくまでも世間にどう説明するかって話だ」
「それなら…」
「お前の言う通り相手が魔物じゃなく人間なら俺達は負けないだろ。それがどんな異質な存在でもな。対人戦だったら俺達に敵う騎士団なんかいないんだぞ。俺達が本気を出せば必ず勝てるんだ。それなのにわざわざ他の奴らに手柄を渡すのか?本当に渡していいのか?……渡していいわけないだろうが!!」
「それはそうですが……しかし!」
「それならやるしかないだろう?大丈夫だ。俺にはお前がついてる。そしてお前には部下がついている。お前ならやれるさ。お前より強い俺が言ってるんだ。間違いない。もしお前がダメでも代わりに俺がやってやるから安心しろよ。な、だから、やるって言えよ」
バイラスの威圧がカイゼルを完全に支配する。
「……やります」
「それでいい。その言葉が俺は聞きたかったんだ。お前らもいいな!!」
「「ハイッ!!」」
「よし。お前ら、転移者の奴らの動きを見張ってろ。俺の見立て通りなら必ず動きがあるはずだ。動きがあり次第いつも通りにな。返事は!!」
「「ハイッ!!」」
「カイゼルも腕、悪かったな。治療班には俺から連絡しといてやるからよ」
「……ありがとうございます」
言いたい事を言い切ったカイゼルはその場から去る。
「副団長。腕、大丈夫ですか?」
側にいた兵士がカイゼルの事を心配する。
「ああ。問題ない…。いつもの事だからな」
「団長はああ言ってますけど、俺達本当に勝てるんですかね。いつも通りやっても全く勝てる気がしなくて。それに、いつも通りって事は久しぶりにアレをするって事ですよね…」
「ああ、だろうな」
「あんなのを大々的にやったら他の騎士団の奴らが黙ってなんていませんよ。特に今のホムラの団長はそういうのには敏感ですから。そうなったら俺たちも何をされるか分かったもんじゃないですよ」
「それでもやるしかないだろ……このまま何もしなかったら団長に殺されるだけだ。それに嫌がるのはホムラの団長だけだろ。そっちの方は俺がなんとかして根回ししておくさ。きっと奴なら力も貸してくれる筈だ」
「融通がきく相手に心当たりでも?」
「ああ。1人だけな。まあ、それでも勝てるかどうかは分からないけどな。でもどうせなら無謀な戦いに挑んで騎士として華々しく散った方が様になると思わないか」
「……怖くないんですか?俺たち本当に死ぬかもしれないんですよ。騎士として覚悟をしてなかったわけじゃないですけどやっぱり怖いですよ。この前はたまたま命が助かりましたけど次は……」
「かもな。2度目はあり得ないだろうから。だとしてもやるしかないんだよ。いくらごねて怖がったって我らにはもうその道しか残っていないのだ。それにそうやって死んだ方が団長に殺されるよりは名誉に死ねるさ。きっとな…」
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