第15話 まさか

6時間目。

完全に潰れた。


先生がクリスマス会に向けて何をしようかと言い出したからだ。


そのため教室は動物園みたいになってた。


女子は群れるとうるさくなる。

あちこちで楽しそうにしていた。


俺とは対照的だ。


そのとき、スマホが振動。


(金肉から電話か)


暇なので出てやることにした。


「はい」

『よう。西条。聞いたぜ。クリスマス会やるってな』

「その準備で忙しいよ」

『でもよく考えろ西条。俺みたいに男ばっかりの場所でむさ苦しい思いをお前はしなくていいんだぞ?』


俺はクラスを見た。


女子しかいなくて、すげぇアウェー感。


『くそっ!俺も冒険者なんて蹴るべきだったぜ!』

「まぁこっちはこっちでなんともって感じだけどな」


そう言ってると竹本がやってきた。


「西条くん。この箱開けてくれない?固くて開かないの」


箱を受け取って開けた。


「やっぱり男の子は力すごいよねぇ♡」


むにむに。

俺の腕を触ってくる。


「西条くん細いけどちゃんと筋肉もあるよね♡」

「ずるい。私も」


水野も触ってくる。


『お前女子に触られてるのか?!くっ!羨ましいぞ!』

「言うほど羨ましいか?昨日なんか」


って言いかけて昨日のは黙っておくことにした。


『昨日がどうかしたのか?そういや昨日やばい声聞こえてたけど何してたんだ?お前』

「あっ、いや、大したことないよ」


そう言って俺は電話をぶち切りした。


「西条くん。飾り付けするからさ手伝ってくれない?」


女子にいろいろと頼まれる。

一応身長高いの俺だからな。


死ぬほどキャラと違うだろうけど、それでも頼まれたのでやることにした。


それに授業が崩壊してるとは言え6時間目が終わるまでは暇だし。


ってなわけでそんなふうにクリスマス会の準備を進めていく。


放課後になると俺は速攻教室を出ていこうとしたんだが、竹本が声をかけてきた。


「西条くん」

「なに?」

「時間あるかな?」

「帰って寝たいんだけど」

「ちょっとだけでいいから」

「ちょっとだけな」


言質を取ったので俺は竹本に少しだけ付き合うことにした。


竹本と来たのは図書室だった。

その自由室に向かう。


机に地図を広げる竹本。


「今発生中のダンジョンがこんな感じなんだよね」


地図上に印をつけていく竹本。


「けっこうな速度で増えててさ、消滅がぜんぜん間に合わない。このまま増えたらさ、学校にモンスターが来るかもって感じなんだよね」

「それは大変だな。冒険者の人たちに頑張ってもらわないと」

「そうだね。冒険者の人に頑張ってもらわないとね」

「んじゃ俺はこれで」


話は終わったっぽいし立ち上がったんだけど。

まだ話は続きがあるっぽかった。


「冒険者が使う道具を作る技師も足りてないっぽいんだよね。それでさ、近くの魔法道具屋さんが人手を募集してたよ」

「だから?」

「私と一緒に応募しない?私はともかく、西条くんは最上級の道具作れるよね?西条だけに」

「面白いと思ってる?」


そう言いながら部屋を出ていこうとしたが竹本は言った。


「椎奈ちゃんが西条くんと遊園地行きたいって言ってたよ。でもお金がないんだって。道具屋さんは手伝えばお金くれるってさ」

「仕方ない。事情が変わったようだ」



ってわけで俺は竹本と一緒に例の道具屋まで来た。


割と若めの女の人が店長の店だ。

バイトをしにきたことを伝えると店長は言った。


「ありがとう助かるよ。時給はそんなに高くないけど、よろしくね」


即採用となった。

それだけ技師は足りていないらしい。


説明を受けながら道具を作っていく。


とはいえ道具作成なんか異世界にいたころからもやっていたものだ。


頼まれたものはすぐにできあがる。


俺の技術なんて大したことないだろうけど、それでもやれる限りの全力は出している。


仲間を失う悔しさ、悲しさは知っているつもりだ。


俺の落ち度で誰かが似たような思いをするのは俺の望むところでは無い。


そうして数時間バイトをして今日のところは帰ることになった。


店長が聞いてきた。


「明日からもこれそう?」


竹本が俺を見てくる。


「気が向けばな」

「ということで、明日からは来ないみたいです」


店長は苦笑いしてた。


それから給料を渡してくる。


「聞いていた額より多いけど」

「男の子の方はかなりの量作ってくれたからさ。増額しておいたよ」

「うわー、いいなぁ、西条くん」


目を輝かせて俺を見てくる竹本に少し分けてやることにした。

でも受け取らない。


「欲しいのかと思ったけど」


そう言うと竹本は言ってきた。


「西条くん、知ってる?女の子はお金じゃなくて、好きな人から物を送られたいの」

「だからなんだよ」


そう言いながら俺は店を後にすることにした。


帰り道歩いてると竹本が話しかけてきた。


「この前学校休んでた時の事ってほんとに事故だったの?」


そう聞かれて俺はこう聞くことにした。


「俺から話せることは無い」

「椎奈ちゃんに聞いてもいい?」

「あいつも知らないぞ」


そう言って歩きながら俺はポツリと呟いてみることにした。


「異世界に行ってたんだよ」

「え?」


俺を見てくる竹本に続けた。


「2年間。こっちじゃ時間は経ってなかったけど、俺は2年間異世界にいた」


どうせ信じないだろうと思って鼻で笑おうとしたけど竹本は言った。


「え?!ほんとに?!」


予想とは違う反応だった。


「どういう異世界だったの?」

「……信じるのか?」


自分で言っといて馬鹿みたいな話だと思うけど。


「信じるよ。だからそんなに強キャラオーラ出てたんだね」

「長くなるだろうけど聞いてくれ」


そう言いながら俺は近くにあったベンチに座って口を開いた。異世界での話をした。



ブワッ。


俺の話を聞き終わると泣き始める竹本。


「そんなことがあったの?辛かったよねそんな事あったんじゃ」

「入院していたのはラストバトルで付けられた傷のせいだ」


そう言うとむぎゅっ!


うしろから竹本が抱きしめてきた。


「よしよし。頑張ったね。もう大丈夫だよ」


異世界でのことを思い出した。


異世界でもこういう母性溢れる人がいて、支えてくれてたんだよなぁ。


これ以上やられるとその時のこと思い出しそうだからやめとく。


それで俺は今日のところは帰ることにした。

竹本は遅れないように着いてきた。


電車に乗ってると放送が聞こえてきた。


「学生でも冒険者になれるようになって、ダンジョンの消滅速度が上がっております。学生冒険者の金肉くんに話を聞いてみましょう」


聞き間違えか?と思って俺は竹本を見た。

竹本は頷いてた。


「今金肉くんって言ってた」


どうやらあいつは既に冒険者としての才能を店出しているようだった。


まぁ俺には関係の無い話だけど。


電車を降りて別れる時竹本に聞かれた。


「そういえば、異世界に行ってた日本人は西条くんだけ?前に他校の友達がこんなこと言ってたよ『私の学校に異世界から帰ってきた』って言いふらしてる人がいるって。誰も信じてないみたいだけど、ひょっとして」


そう聞かれて思い出した。


「他にも何人かいたな。中には死んだやつもいたけど、ラストバトルに着いてきた奴は確実にひとり居た」


まさか、とは思ったけどそいつの死亡は確認していない。


それで俺は竹本に聞いた。


「そいつの名前分かるか?」

「新見 シロって子」

「そいつは異世界組だ」

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