第9話 サンタ

時間が流れた。

ダンジョンが出現してから10日ほどが経過していろんなことが分かり始めた。


そして、先日驚くべきことが起きた。


なんと学校にダンジョンができたのだ。


敷地内の隅っこの方にできたそのダンジョンは倉庫から入ることが出来るのだが。


そこからはモンスターも出入りする。

そのため危険すぎるという事で休校になっていた。


もちろん俺はその休みを満喫中である。


せっかくの休日ということもあり椎奈と出かけることにした、のだが。


「さきほどから視線を感じるな」

「え?そう?」

「たいへんだ」

「なにが?」


俺は椎奈を見て言った。


「ストーカーだ」

「ストーカー?」

「視線を感じる→何故?→見たいから→何故見たい→→椎奈が可愛いから→椎奈の全てを知りたいストーカーが見ているということだ」

「えー、ほんとにぃ?」

「間違いない。とりあえずストーカーの視線を外すぞ」


俺はその後とりあえずゲーセンの方に行くことにした。


ゲーセンでいろいろゲー厶を始めた。

こうしてると勝手にストーカーの方が諦めるだろう、と思ったのだが。


(近付いてきてるな)


距離。

3メートルほど。


俺は視線を感じる方に振り返るとそこにいたのは


「西条くん。こんなところで何してるの」


石野さんだった。


「そっちこそ」

「私は見回り。一応休みじゃないから自宅で自習しないと」


そう言ってくる石野さん。


なるほど。見ていたのは石野さんだったわけか。


ストーカーではなかったようだが。


「帰ろっか、ねぇ西条くん」


石野にそう言われてしまった。


「仕方ない。椎奈を呼んでくる」


俺は椎奈を呼んでそのまま石野さんを連れてゲーセンを出ることにした。


帰り道石野さんが話しかけてくる。


「ねぇ、普段は西条くんはなにしてるの?」

「寝てる」

「だけじゃないよね?」


その質問に答えたのは椎奈だった。


「寝てるよ兄さん。死んだみたいに寝てるよずっと」


涙目になってる。


「久しぶりに一緒にお出かけできたのに」


俺は石野を見て言った。


「うわ、泣かせた」

「ご、ごめん。でも一応さ、ほらね?」


そう言われたらケロッとして笑顔になる椎奈。


「わかってるよ。だから大人しく帰ってるんだし」


そうして歩いてると石野が再度聞いてきた。


「ダンジョンに行くつもりとかはないの?」

「ないよ」


即答した。

別に行かなくていいからなあんなところ。


と、歩いてたらトイレ行きたくなってきた。


周りを見て直ぐにコンビニを見つけた。


「ごめん。待っててくれる?トイレ行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい兄さん」


遅れて石野も返事をしてくれたがそっちには何も返さなかった。


後ろから声が聞こえる。


「見た?椎奈ちゃん!西条くん私にだけなんの返事もないんだけど?!」

「たまたまじゃ?」


コンビニでトイレを済ませて適当にジュースを買って出てきた。


「ふぅ、お待たせ」


そう言いながら出てきたのだが、


「そんなこと言わずにさぁ」


そんな男の声が聞こえた。

顔を上げるといかにもな男がいた。


そいつが椎奈に言い寄っていた。


いかにもな、奴だったがもし知り合いならいけないので遠回しに口にすることにした。


「椎奈。付き合う人種は選べと教えたはずだが。もし友達なのであれば俺は悲しいよ」


そう言うと男は俺に目をやった。


「あぁ?誰だおめぇは」

「見て分からないかなぁ?通りすがりの雑魚だよ」


そう言うとぶっ!と笑った男。


それから椎奈は言った。


「兄さん、ナンパみたいです」


それを聞いて俺はコーラを乱雑に取り出して蓋を開けた。


ブシャッ。


男の顔にかかった。


「失せろ」

「てめぇ、誰にやってんのか分かってんのか」

「失せろ。次はもう言わんぞ。もし次言わせたら腕の一本は覚悟することだ」


目を細めて言うと男はその場に尻もちをついて倒れた。


これは異世界で学んだ目つきだ。

アサシンに教えてもらった。

一般人を脅すだけなら視線だけで十分だと。


「ひ、ひぃ……」


じわぁ。

股の辺りを濡らして泣きそうになる男。


それを見て椎奈に言った。


「大丈夫か?」

「う、うん」

「気をつけろよ椎奈。椎奈は可愛いんだ。ナンパされる事もあるかもしれない。その時は迅速に俺に助けを求めることだ」


そう言うと首を横に振る椎奈。


「ナンパされたの私じゃないよ」

「は?ナンパされてるって言ったじゃないか」


椎奈は石野を指さした。


「私じゃなくて石野さんがナンパされた」


カチーン。


俺は男を見た。


「おい」

「ひ、ひぃ」

「一応聞いてやろう。なぜ椎奈をナンパしなかった?」

「す、スタイルが……あまり好みじゃなかったんですぅ……」

「スマン。よく聞こえなかった。もう一度言ってみろ」

「好みじゃなかったんですぅ!」

「へー」


鼻で笑ってから俺は手に持っていたコーラを男の口に押し込んだ。


「へぼっ!」

「人目があるところで良かったなぁお前。なかったら死んでるよ」

「ひ、ひぃぃぃ!!!!」


男は今度こそ脇目も振らずに走っていった。


「どこの世界にもいるんだな。あの手のヤツは」


そう呟きながら俺は椎奈と帰ることにしたのだが。


石野が声をかけてきた。


「あ、ありがとう西条くん」

「気にするなよ」


そう言って歩いていこうとすると石野は言った。


「か、薫くんって呼んでいい?」


俺は振り返った。


「なんで?」

「2人は兄妹じゃん?だからさ。その、そっちの方が分かりやすいかなって」

「好きにしろよ」


俺はそう言って歩こうとしたが目をぱちくりさせる石野。


「あ、あのさ」

「こんどはなに?言いたいことはまとめてくれ」

「私のことも下の名前でいいよ」

「下の名前知らないから呼べない」

「ミヤって言うの」

「頑張って覚えとくよ」

「え、ちょっと待って?!頑張らないと覚えられないの?!」

「ん?そりゃそうでしょ。人の名前なんて努力しないと覚えられないよ」


俺たちの会話を聞いて笑う椎奈。


「兄さんはたいへん罪作りな男ですなぁ」

「なんの話?」

「なにも分かってないんだね」

「俺に分かるのは椎奈がかわいいってことだけだよ」


そこでミヤが口を挟んできた。


「ふたりともほんとにシスコンでブラコンなんだね。あ、あははは」


苦笑いしてるようだった。



それから俺は近くのダンジョン前に椎奈といっしょに向かった。


なんていうかやはり心のどこかでは気になっている自分もいるようだ。


んで、そこで出会ってしまった。


「おや、おやおや〜?強キャラさんじゃありませんか」


なぜかサンタ服を身につけた桐崎に。


そして、桐崎の次のセリフはこれだった。


「もしかして、桐崎サンタに会いたくてここに来ちゃった、とか?」


当然だがこいつがここにいることなんて俺はまったくもって知らないことだ。


記憶にございませんってやつ。

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