第8話

(俺と食事したいなんて変わったヤツだな)


そんなことを思いながら俺もパンを食べる。


そうしていたら竹本が聞いてきた。


「サンドイッチ食べる?」

「いらないならもらってもいい」


そう言ってみると目をパチクリさせてた。


「なに?」

「あ、いや。いらないって言うと思ったから」

「俺割とサンドイッチ好きだよ」


そう言って思い出してた。


異世界での生活のこと。


で、ふと思い出してた。


異世界で食べた特別なサンドイッチ。


今まで食べたことがなかったものだった。


「あれ、なんだっけ……」


異世界の奴らはぶっ飛んでたんだよな。

発想が。


あー、そうだ。思い出した。


「おっぱいサンドだ」

「ふぇっ?」

「いやだからおっぱいサンドだって。谷間にサンドイッチ挟むんだよ」


パチクリ。


俺の事を真顔で見てくる竹本。


「真顔でなに言ってるの?」


そう言われてハッ!となった。


「すまん。忘れてくれ」


すげぇ、雰囲気が悪くなってしまった。


当たり前の話だったよな。


立ち上がって俺はスライムを連れて屋上を出ていこうとしたけど。


だが、ここで竹本の表情も変わった。


「事故の後遺症?!」


そう言って俺の手を取ってきた。


「そうだよね?じゃないとさぁ、おっぱいサンドなんて言葉この場で出ないよね?!」


「あ、いや」

「谷間で挟むの?」

「……」


何言ってんだこいつ。

スルーしてくれないか?


俺も忘れようとしてるんだからさ。


「すごい、真剣な顔してるね西条くん」

(真顔だからな。真剣ではないんだけど)


てか、やばくない?

話の流れがさ。


「おっぱいサンドに何か秘密があるの?」


そう聞いてくる竹本。


「あるわけないだろ」

「嘘だよっ!おっぱいサンドに何か秘密があるに決まってる!」

「(そんなものあるわけないけど)大丈夫?」

「だいじょばない!」


それにしても俺もくだらない事を思い出してしまったものだ。


俺が反応に困っていると竹本は自分の胸に手を当てた。


「おっぱいサンドしてみたらなにか思い出せそう?」

「なにも思い出さないよ。そこで頭でも冷やしてるといい」


ピシャリとそう言い放って俺は屋上を出ていくことにした。


もちろんスライムも回収して、だ。


(酷い目にあったな)


まさかおっぱいサンドについてあんなに連呼されることになるとは思わなかった。


コンコンコンコン。


階段を降りようとしていたところだった。

後ろから声。


「待ってよ西条くん。話まだ終わってないよ」


タッタッタッ。


振り返ると走ってくる竹本の姿が見えた。


そして


ズテッ。


「あっ」


竹本が階段を踏み外して前に向かって落ちようとしていた。


【ウィンドボール】


俺は魔法を発動させて風の玉で竹本を包み込んでやった。


スーッ。


そのまま階段下まで降りてくる竹本。


ペタンと座り込んで俺を見てくる。


「えっ?なにっ?今の」

「竹本さん。世の中知らない方がいいこともあるんだよ。おっぱいサンドも忘れてくれ」


そう言って歩いて行くことにした。


で、後ろからこんな声が聞こえてきた。


「西条くん絶対強い人だ。強キャラ感すごい!」


俺はまたしても強キャラみたいなムーブを無自覚にしてしまったのかもしれない。


その後俺がしばらく歩くと建物の陰から人が現れた。


(桐崎か)


桐崎が話しかけてくる。


「こんにちは西条くん」

「それって、不法侵入ですよ」

「違いますよ。許可もらってるので」


ニヤッと笑ってこう言ってきた。


「忘れ物。返しに来ましたよ」

「忘れ物?」


桐崎は俺の右手を取って開かせるとそこにとあるものを置いた。


俺が先日先生を助ける時に使ったコアだった。


「身に覚えがないですねぇ」


そう言いながら返そうと思ったが受け取らない。


「大丈夫。誰にも話すつもりありませんから」

「なら放っておいてくださいよ」

「分かりましたよ。西条くん。今日はこれで」


意外にもすんなり帰って行った桐崎。


その後に違う声。


「今の桐崎さんだよね?」


竹本が話しかけてきた。


「知ってるのか」


竹本に聞いてみると頷いた。


「もちろん。今日本で1番強い人だよね?」


目を輝かせてる。


「そんな人に話しかけられるなんて西条くんの強キャラムーブは止まらないね」

「俺は弱キャラだよ」


そう言って歩いていくが相変わらず着いてくる竹本。


次の授業が始まるまでそれは続いた。


そして、放課後。


帰ろうとしてると案の定竹本が寄ってきた。


「俺と話して楽しいかい?」

「うん」

「変わってるね。君は」

「変わってるついでにおっぱいサンドについて詳しく教えてくれない?私西条くんの力になりたいの」


その話まだ覚えてたんだな。


俺ですら忘れてたのに。


「ごめん。忘れてくれないかな?それと、いい加減しつこいよそのネタ」

「はぅぅぅぅぅぅぅ……」

「なに?」

「心臓止まっちゃいそう……♡」

「止めてあげようか?心臓。いらないでしょ?」

「はぅぅぅぅぅぅ……♡」


余計に餌を与えただけのような気がする。


「じゃあね」


今度こそ教室を出ようとしたが竹本はまだ話しかけてくる。


「後で個人チャットしていい?」

「なら君からメッセージが届かないようにブロックしとくよ」

「え?」


さすがに言いすぎたか?と思ったが、笑顔になる竹本。


「私のメッセージなんて無視しとけばいいのに、わざわざ私なんかのために貴重な時間を使ってブロックしてくれるの?西条くんはなんて優しい人なの」


これ以上は何も言わずに教室を出ていくことにした。


厄介なやつに目をつけられたのかもしれない。


家に帰って死んだようにベッドに転がり込む。


スライムも俺の横でグダってる。


「眠い」


寝ようとしたそのときだった。


ブーッ。


スマホが振動してた。


目をやると通知が届いたようだ。


(確認してから寝るか)


そう思いスマホを手に取って気付いた。


「竹本からのメッセージか」



竹本:こんばんはー。



俺:こんな夜にメッセージしてくるなんて時間を選べないのかな?



竹本:ブロックしてくれてないなんて優しいっ!



その返事を見て俺はスマホを黙って机に置いた。


そのときだった。


コンコン。


「兄さんいる?」


椎奈の声だった。


「開いてるよ」


扉が開いて椎奈が姿を見せる。


「竹本さんからメッセージ届いた?」

「教えたのは椎奈か?」

「うん、だめだった?」

「別にいいよ(俺が椎奈のやることに文句言うわけないしな)」


俺はそう言ってみると椎奈はこう聞いてきた。


「ところでおっぱいサンドってなに?」

「椎奈、お前もか」

「なんなの?教えて?!」


俺は椎奈に説明してやることにした。

こうして俺の一日は終わっていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る